「月子、おめでとう」
「ありがとう!錫也!」
白いドレスを身に纏った月子は本当に綺麗だった。あの頃よりも大人っぽくなった顔つきで、でも何も変わらない太陽のような笑顔で笑う。
彼女は今日、結婚する。
相手は俺ではない。
俺も哉太も知らないやつ。
俺はこいつに自分の思いを伝えることは出来なかった。今も出来ないでいる。幼なじみの錫也から抜け出すことが出来なかった。
「そのドレスも似合ってるよ」
「ほんと?あの人がね、絶対これがいいって聞かなかったの」
そういって頬を赤らめて笑う。俺の知らない顔で。
胸のあたりが黒くなっていくのが分かる。なんで、俺じゃないんだ。なんで、他の男が選んだものを身に着けているんだ。違う。月子にはもっと似合うのがあるはずなんだ。どうして、俺がこいつの隣にいないんだ。
理由は俺の勇気が出なかっただけ。ただ、それだけ。今さら後悔しても遅いのだ。
「月子、幸せになれよ」
「…うん」
「俺の分も」
「…錫也も幸せになってよ」
「…ああ、そうだな」
「絶対ね!」
「ああ」
約束、といって彼女が出した手の薬指には銀色の指輪がきらきらと輝いていた。
その時の俺はうまく笑えていただろうか。
月子、無理だよ。俺は幸せになんてなれない。月子が隣にいないと、俺は幸せになれないんだよ。
でも、君はそいつと幸せになって。うんと世界中のだれよりも幸せになるんだよ。
…嘘だけど。
虚言
(君に贈る虚ろの言葉)
100421/燕樹