時々忘れてしまう。
何かを忘れる。
でも、何かを忘れたのかさえ忘れる。
もしかしたら忘れてないのかもしれない。
でも、忘れている。
「翼くん?」
「つきこ」
「?」
「んー、すきだなぁって思って」
「あ、ありがとう…」
そういったら、月子は可愛らしく顔を染める。大好きで大好きで大切な俺の彼女だ。月子と一緒にいられるこの時間がとても幸せで幸せで仕方がない。…はずなのに。
「翼くん、ど、どうかしたの?さっきから変だよ」
「ぬー…」
「ねえ、翼くん。何かあるんだったら話して」
「うぬぬぬぬ…」
そんな顔されたら話さなきゃと思ってしまうじゃないか。月子はわかってやってはないと思うけど、ずるい。
「正直、俺にもわかんない」
「え」
「なんかこう、もやもやーってして」
「う、うん」
「ぐわんぐわんして」
「うん」
「うぬぬーってなる」
「わ、わからない…」
うん、俺にもわからない。特に月子といるとき。自分のことがわからなくなって、心が晴れないんだ。
「でも、月子といるとちょっと良くなる」
「ほんと?」
「ほんとだぞ、ぬはは!」
月子といるともやもやーぐわんぐわんして、月子といるとそれが晴れる。矛盾してるけど、ホントにそうなのだ。不思議だ。
「じゃあ私、翼くんの側にいるから」
「ホントか!!やったぞ、ぬははー」
とりあえず、今は月子が側にいるからそれでいいや。
梟
(忘れないぐらい大きな愛をちょうだい)
100403/燕樹
天野月子 梟 より