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小心者で臆病な私は、人見知りが作用したせいか人と話す事が得意じゃなかった。人と話すのなんてどうってことないよ、と言える人にとって、私は変わり者みたいなものなんだろう。
それでも、彼はいつだって私に優しく接してくれて、人見知りである事を理解した上でとても気を遣ってくれた。
だから、彼を好きになって、私は変わることが出来たんだと思う。


「旭くん」

「ん?どした?」

「菅原くんが呼んでる」

「あ、ほんとだ。ありがとう」


ふわりと笑顔を向けて旭くんは席を立った。私が好きになって、想いを伝えて、晴れて彼氏彼女の関係へ発展する事が出来たのだけれど、未だにどきどきと心臓が忙しく動いている。関係が成立して、もう随分と時間が経っているのに。
旭くんは、すごく大きくて威圧感のある風貌なのだけど、本当はすごく繊細な心を持っててちょっと私に似ているところがある。
それがあるから、私の気持ちも理解してゆっくり優しく話してくれるのだと思う。


「え、夏祭り?」

「うん、どうかなあって」


夏休みのある日のことだった。甲高く鳴った携帯電話の発信者は旭くん。
地元の夏祭りがあるらしく、三日間に渡るそれは最終日に花火が上がるらしい。だから、よければ見に行かないかとのことだった。
勿論、二つ返事で快諾した。人混みはちょっと苦手だけど、何より誘ってもらえたことが嬉しかった。


「ご、ごめんね潔子ちゃん。うちのお母さん着付けとかに疎くて……」

「いいの、私も最初はそうだったから。そこ座って、髪も結ってあげる」


夏祭り当日、お母さんの代わりに潔子ちゃんが私の浴衣を着付けてくれる。滅多に着ない浴衣なんて引っ張り出してきたところで、着方など一切分からない。困り果てた末、潔子ちゃんに泣きついたら静かに助け船を出してくれたのだ。
別に浴衣で行かなくたっていい。普段着でもお洒落にすれば何とかなるから大丈夫。そう言ったけれど、潔子ちゃんは聞かなかった。
「馬鹿ね、デートなんだからちょっとくらい手伝わせて」とかっこいいことを言って。

しばらくして、ようやく着付けが終わった。普段と違う帯の感覚が、ちょっと息苦しくて変な気分だ。
姿見に映る私の格好は見違えるほど綺麗になっていた。服装と髪型だけ。中身の私が全く追いつけていないのが申し訳ない。けど十分浴衣マジックにかかっている気がする。


「あ、ありがとう潔子ちゃん!凄いよこれ!」

「よかった。よく似合ってる」

「また今度一緒にお祭り行こうね。それまでには浴衣着られるように練習しておくから」

「そう、楽しみにしてるわ」


潔子ちゃんが微笑んで、私もこんな風に笑えたらどんなに素敵だろうかと考えた。何度も何度もお礼を言い、私は待ち合わせの場所まで行くことにする。
どうにもこの人混みを一人で歩くのが怖くて、ここ最近お祭りなんてものに寄り付いてすら無かった。早速、沢山の人で溢れ始めた神社付近に行き着く。こんなんじゃ、お祭りは人だらけで動けないんじゃないだろうか。


「なまえ……?」

「あっ、旭くん!よかったぁ、まだ来てないかと思っちゃった。あれ、ごめん。もしかして待たせたかな」

「全然。俺もさっき来たところだから」


にっこりと笑う旭くん。よかった、安心した。でも、優しい旭くんのことだから本当は待っていてくれたのかも。
何だか、幸せだなあ。


「なまえ、その浴衣すごく似合ってるね。一瞬誰だか分からなかったよ」

「えっ、ほんと?浴衣はすごく綺麗なんだけど、私だけ浮いてないかなって不安だったの」

「全然そんなことないよ」


柔らかな声に、思わず頬が緩む。旭くんの言葉はいつだって私を幸せにして、温かくする。不思議だ。
私の言葉も、旭くんをそんな気持ちにさせることが出来ていたら、嬉しいんだけどな。

行こうか、と差し出された手を握る。この手をいつまで握っていられるだろう。あっという間に夏は過ぎて、きっとすぐに高校生≠ネんて肩書きは消え去ってしまう。
そうすれば、会いたい時にいつでも会えるなんて不可能になるんだ。寂しい。でも、仕方ない。
ぎゅっと手の力を強めると、心配そうに顔を覗き込まれた。


「どうした?具合悪い?」

「ううん、わたあめ、食べたいなって」


揉み消すように笑顔を作って、屋台を指差した。もしかしたら、ばれているかも。
それでも、これ以上何も言わずに旭くんは笑って頷いてくれた。

ふわふわのわたあめは甘く、ヨーヨー釣りなんかに必死になってみたり、キンキンに冷えたかき氷は二人で分け合った。こんな風にお祭りを満喫したのっていつぶりだろう。
人出は増す一方で、だんだん花火を見るために場所取りを始める人で溢れかえった。


「私達もどこか場所見つけた方がいいかな」

「そうだなあ。なまえ、他に回りたいところ無い?」

「うん、平気」

「じゃあ探しに行こう」


人混みに紛れ込む。噎せ返るような香水の匂いや汗の匂い、四方八方へ自分の行きたい場所へ散らばる人の中、私は旭くんを見失わないように必死だ。
やっと人混みが晴れた時、わあっと歓声が上がった。


「花火……!」

「ちょっと早く始まったみたいだな」


ぱらぱらと光が散る空を、ぼんやりと眺めた。綺麗だ。いつも家の窓から見ていた遠くの花火とは違う。やっぱり近くで見なくちゃ。
このためだけに祭りに来る、なんて人が居てもおかしくない。


「旭くん」

「うん?」

「私ね、人とお話しするの苦手だった。でも、なかなか分かってくれる人が居なかったの。そんな時に旭くんだけは私を気遣ってくれた。そんな旭くんを私は好きになって、良かったなあって思うの」

「ええ?そんな大したことはしてないよ。どうしたんだよ突然」


笑いながらこちらを見るので、ぎゅっと手を握りしめた。さっき言いそびれたことを言わなくちゃ。


「今すごく幸せだから、来年もそのまた先もこんな風に花火を見にきたり出来るかなって不安になるの。ほら、進路とかあるでしょ。今みたいに会えなくなるの、寂しいなって……」

「絶対会いに来るよ」

「え?」

「確かに、毎日会うことは出来なくなるかもしれないけど、それでもなまえが会いたい時はいつでも会いに来る。花火もさ、毎年一緒に見に行こう」


きらきらしていた。それは多分、花火の光だけじゃない。旭くんの笑う顔は、いつだってきらきらしていて温かい。
そのまた先もずっとずっと、大人になっても、こうして手を繋いでいられたなら。


「ありがとう旭くん、大好き」




君の笑顔は太陽だ
(照らされる私はお月様ね)