今日もDランクの簡単な任務を終え、カカシが覇気の無い声で解散を告げる。
いつものようにサクラが俺に声をかけ、そんなサクラを見たナルトが俺につっかかってくる。
普段の俺は「うぜぇ」とかって吐き捨てて、家路についていた。
けど、今回は用事がある。


「冴弥、この後暇か?」
「特にはねぇよ。どうした?修行でも見て欲しいのか?」
「そんなところだ」






◇      ◇






サスケに連れられて辿り着いた場所は、うちはが所有している道場だった。
サスケの兄であるイタチが起こした事件の後も、サスケはこの屋敷を離れられずにいるようだ。
未だに愛用しているローファーを脱いで室内に上がりこむ。


「で?何の用だ?」
「別に大したことじゃない。アンタがいた、異世界の話が聞きたい」
「俺がいた世界?」


何故そんな事が気になるのだろうか。この少年が興味を示すような事は、話したことは無かったと思うのに。
それに、己には偏った知識しか無い。知りたがっている少年に偏りのある事を話すよりは、話さないほうがいいかもしれない。
しかし、そういう訳にもいかないだろう。己が話すまで少年は帰してはくれなさそうだ。
ふぅ、と息を吐き、せいぜい世界の汚さを語ってやろうと開き直った。


「俺には偏った事しか話せないからな。覚悟しとけ」


その後二時間近くかけて、冴弥がいた世界の裏社会について話して聞かせた。
マフィアについても、少年が理解するまで噛み砕いて教えてやり、貧民街(スラム)で暮らす人々については己の体験談を話した。
まだ少年が経験した事など無いような、血みどろな話もしてやった。全ては冴弥が実際に経験した事だが。
生きるために血を浴び続ける、というのはまだ理解しがたいようだ。少年の理解出来ない人種が目の前に座っているというのに。


「治安の悪い貧民街(スラム)なんかは、周りに気ぃ使ってる余裕なんて無いぜ。皆自分が生きるために必死だからな」


己が見てきた限りでは、一日の死者が二桁でなければまだいいほうだった。
凍死だったり、餓死だったり、脱水症状や血液不足、栄養失調で死ぬ奴が一番多かった。
一日一食口に出来ればまだまし、なんて地区もあるくらいだ。周りの人間に気を配れる奴はむしろ神レベルといってもいいだろう。


この里は平和だ。少なくとも食べるものに困ったりはしない。
護るために殺すことはあっても、生きるために殺すことはしない。道に死体がごろごろ転がっている、なんて光景も見た事は無い。


「お前らは幸せ者だぜ?見る奴が違えば答えも変わってくるけどな」
「兄に親を殺されたとしてもか」
貧民街(スラム)の連中は大抵が捨て子だ。親だ家族だなんて知らねぇさ。俺もな」


そう言えば、少年は何も答えを返せなくなった。12歳の子供が考えつくほど裏社会は甘くは無い。
幼い頃から手を赤く染めてきた子供は少なくない。冴弥もまたその一人だ。


「世界は広い。サスケはまだまだ知らない事のほうが多いだろう」
「…俺もまだまだ、か?」
「そうだな。俺にも分からないことは沢山ある。理解できない事も」












世界の広さを、垣間見た

(ならば、)
(これから知っていけばいい)