初めての里外任務の帰り、とても不思議な人に会った。
黒いスラックスに黒いジャケット、その背中には十字架が大きく描かれていて、何かかっこいい。
見慣れない靴に見慣れないカバン、一部が紅くなっている黒髪に紅い瞳。
全身に黒を纏った中に在る紅が、とても美しい人だった。
初めて見た時は殺気立ってたから、すごく怖かった。
けれど、少し話してみたら全然怖くなくて、とても綺麗に笑う人だなぁって思ってた。






◇      ◇






「前から気になってたんですけど、冴弥さんって彼女いないんですか?」


任務の無いある昼時、調味料が切れているのに気付いて買いに出かける。
視線の延長上に冴弥の姿を捉え、目的地が同じであることを知り、一緒に歩いているときにサクラが口に出した言葉がそれだった。
女はこういう話が好きだったな、なんて思考を巡らせながらも、サクラの問いに否と答える。
それを聞いた少女曰く、「こんな良い男放っておくなんて見る目が無いのね!」 らしい。


「じゃあ、好きな人とかもいないんですか?」


その問いにも、彼は否と答えた。何せ、人としての感情に目覚めたのはまだ一年程前の話だ。
そんな短期間で人を愛することが出来るだろうか。見知らぬ人間には無意識に壁をつくる彼が。
けれどそんなことをサクラに言えるはずもなく、さりげなく話を逸らす。
サクラはサスケが好きなんだろう。そう問えば、やはり図星らしく頬を赤く染める。
恋する乙女、という言葉が一番しっくりくるのはこの少女だろうと思うと、微笑ましくなってくる。
己が少女くらいの時は、丁度日本に渡った頃だろう。あまりにも平和ボケすぎて、逆に驚いてしまったのはよく覚えている。


「そういえば、冴弥さんは今日何を買いに来たんですか?」
「昼食にパスタでも食べようと思ってな、それを買いに来たんだ」


ボンゴレに拾われてから口にしていた料理は皆美味かったが、中でも一番の好物だったのがパスタだった。
日本に渡ってからもよくシェフに頼んで作ってもらっていたが、此方に来てからは食べていなかったので、久々に食べようと思っていたのだった。


他愛ない話をしながら買い物をすませ、店を出る。
帰路を辿りながらもサクラの質問は延々と続く。思春期の女は知りたがりなのだろうか。


「冴弥さんって料理得意なんですか?」
「人並程度には出来るよ」


一応苦手という訳ではないことを告げると、「料理できる男の人って憧れますよね!」と目をきらきら輝かせて言った。
料理の出来ない男に対しては、なんとも殺傷能力のある言葉を笑顔で言ってしまうサクラはある意味ですごいと思う。やはり女は理解しがたい。
ふと、話していて思いついたことをサクラに提案してみる。


「今度俺の家に来ないか?何か作ってやるよ」
「えっ、いいんですか!?」
「もちろん」













穏やかな昼

(柔らかな陽光が降り注ぐ昼時)
(買い物袋を提げて交わす、他愛のない話)