初めて見た時から、ずっと思っていた事が在る。 彼を見つける度に訊ねようと何度も試みたが、心の奥底で躊躇しているのか、結局いつもタイミングを逃してしまっていた。 彼のそれを見つける度に、その疑問は深まっていく。 けれど、訊くことが出来ない。 我ながら情けないと思うのだが、仕方がない。 どうしてもその言葉を口にする事が出来ないのだ。 『どうしてその髪は紅いの?』 と。 ある日、彼に呼ばれて森の奥まで来た。 ずっと背を向けていた彼が此方に振り向き、こう言った。 「俺に訊きたい事が在るんだろ?」 と。 何故分かったのだろう。 恐らくはそんな顔をしていたのだろう。くすくすと笑いながら、戸惑う俺に答えをくれた。 「前、そんな事を呟いてたのを聞いたんだ。たまたまだけどな」 いつかの呟きを聞かれてたなんて、随分と恥ずかしい経路で知られてしまったようだ。 けれど、わざわざ彼のほうからきっかけをつくってくれたのだから、感謝すべきだろう。 此処で躊躇してしまえば、一生この疑問を抱えて過ごすことになってしまう。 「何故、冴弥さんの髪は紅いんだ?」 そう問いかけた。 ずっと抱いていたその問いを。 ほんの少し驚いたように目を見開いて、そして心底おかしいとでも言いたげな様子で笑い始めた。 傷つけてしまうかなとは思っていたが、まさか笑われるとは思ってもみなかったので、此方は心底驚いた。 滲んできた涙を拭い、まだ堪えきれない笑いを漏らしながらも、その問いに答えをくれる。 「俺にも分かんないよ。生まれた時からこの色だしな」 やっと落ち着いてきたのか、軽く深呼吸をして息を整えている。 最後に一息、ふうと漏らしてから、けれど、と続けた。 「もしかしたら、俺の罪の色なのかもな」 俺は今まで沢山の血を浴びてきたし、これからも浴び続けるだろうから。 そう言って、悲しそうに笑った。 俺はその顔を見ていられなくなって、ついこういってしまった。 「おれは、夕焼けの色だと思う」 彼のその色を見る度に思っていた、その言葉を。 その言葉を聞いた彼は、とても綺麗に笑った。 |