初めて見た時から、ずっと思っていた事が在る。
彼を見つける度に訊ねようと何度も試みたが、心の奥底で躊躇しているのか、結局いつもタイミングを逃してしまっていた。
彼のそれを見つける度に、その疑問は深まっていく。
けれど、訊くことが出来ない。
我ながら情けないと思うのだが、仕方がない。
どうしてもその言葉を口にする事が出来ないのだ。


『どうしてその髪は紅いの?』


と。






◇      ◇






ある日、彼に呼ばれて森の奥まで来た。
ずっと背を向けていた彼が此方に振り向き、こう言った。


「俺に訊きたい事が在るんだろ?」


と。
何故分かったのだろう。
恐らくはそんな顔をしていたのだろう。くすくすと笑いながら、戸惑う俺に答えをくれた。


「前、そんな事を呟いてたのを聞いたんだ。たまたまだけどな」


いつかの呟きを聞かれてたなんて、随分と恥ずかしい経路で知られてしまったようだ。
けれど、わざわざ彼のほうからきっかけをつくってくれたのだから、感謝すべきだろう。
此処で躊躇してしまえば、一生この疑問を抱えて過ごすことになってしまう。


「何故、冴弥さんの髪は紅いんだ?」


そう問いかけた。
ずっと抱いていたその問いを。
ほんの少し驚いたように目を見開いて、そして心底おかしいとでも言いたげな様子で笑い始めた。
傷つけてしまうかなとは思っていたが、まさか笑われるとは思ってもみなかったので、此方は心底驚いた。
滲んできた涙を拭い、まだ堪えきれない笑いを漏らしながらも、その問いに答えをくれる。


「俺にも分かんないよ。生まれた時からこの色だしな」


やっと落ち着いてきたのか、軽く深呼吸をして息を整えている。
最後に一息、ふうと漏らしてから、けれど、と続けた。


「もしかしたら、俺の罪の色なのかもな」


俺は今まで沢山の血を浴びてきたし、これからも浴び続けるだろうから。
そう言って、悲しそうに笑った。
俺はその顔を見ていられなくなって、ついこういってしまった。


「おれは、夕焼けの色だと思う」


彼のその色を見る度に思っていた、その言葉を。
その言葉を聞いた彼は、とても綺麗に笑った。













彼の持つ色

(ありがとう、シカマル)
(…いや、本音だし)