ゆらゆらと、くゆる紫煙をぼうっと見上げる。
何処までも広がる青々とした大空に儚く消えて行く紫煙を、銀髪の少年は無心で見送る。
眼前の大空に、己の尊敬する人を重ねて、思う。


(この空は、十代目のようだ)
(何処までも広く、俺達を受け入れてくれる)


短くなった煙草を、携帯灰皿に押し付ける。
以前の少年ならば、その辺に放り捨てていただろう。しかし、彼が十代目と呼び、尊敬している少年が許さなかった。以来、彼は携帯灰皿を持ち歩くようになったのだ。
少しずつ穏やかな雰囲気に沈んでいった為に、ゆっくりと睡魔が少年を襲う。このまま眠ってしまおう、と瞳を閉じた。
ゆったりとそよぐ風を頬に感じながら、意識を手放そうとしたその時、


「あれ?隼人。何してんだ、サボリか?」


扉の開く音がしたと思えば、此処にはいないはずの人の声が聞こえた。もう少しで眠れたのに、と不愉快な気分を露わにし、舌打ちをする。
つい先ほど、少年の眠りを妨げた彼は、困惑したような笑みを少年に向ける。


「おいおい、何で舌打ちすんだよ」
「うるせぇ」


彼の疑問をすぱっと切り捨て、懐にある煙草を取り出して火を点けた。
紫煙を吸い込んでは吐き出す。そんな動作を幾度か繰り返せば、苛々とした気分が晴れ、再び穏やかな雰囲気に呑まれていく。
落ち着いてきたおかげか、ふと感じた疑問を、傍らで自分と同じように煙草をふかしている彼に問うた。


「ってか、何で冴弥さんが此処にいんだよ。いくら中学生でも、学校違うだろ」


冴弥、と呼ばれた彼は、茶目っ気たっぷりの笑顔で答える。


「サボリ☆」
「サボリ☆じゃねー!あんたはサボリで学校抜け出すのかあそこすげー厳しい私立校じゃねぇのかよんなホイホイ抜け出してきて良いのか!?つーかぜってぇお前此処までわざわざ車で来ただろ運転手がすげー可哀想だってのてかお前3年じゃねぇか良いのか3年がそれで!本題だが一体何の用で並中まで来たんだ!?」
「おお。すげー、ノンブレスじゃん」


大声でしかも息も吐かずに一気に捲し立てた為、荒い呼吸をする少年に対し、気の抜けた拍手を送る。
ぜはー、ぜはー、と必死に酸素を取り込もうとしている少年の背中を擦ってやる、というおまけ付きで。
眉間の皺が現在進行形で増量中な少年はその手を払い、少々殺意を込め、刺すような視線を投げかけた。


「質問に答えろ」
「まあそんなに怒るなよ」


放っておけばそのうち額に青筋を浮かべそうな少年を宥める。


「一応、俺は梶原グループの跡継ぎだぜ?いくら仮病がバレたとしても、文句言う訳ない。皆自分が可愛いからな」


それに俺、演技上手いし。なんて表面上は悪戯小僧のような笑顔なのだが、背後になにやら黒いものが召喚されているので、まったくもって笑い事ではない。
心なしか、少年の顔色が悪くなっているのをあえてスルーし、少年の懐にある煙草のケースに手を伸ばす。相手が硬直気味なのをいいことに何勝手に漁ってんだ。
しかし、そんなの関係ねえとばかりにケースを奪い、中の煙草をくわえて火を点ける。


「…うっわ、薄ッ!殆ど味しねぇじゃん」
「…っておい!何人の勝手に吸ってんだよ!」
「いーじゃん別に減るもんじゃ「いや減るっての!」


ちぇ、けち。とケースを返す仕草は、意外に可愛げがある。だが、目がとてつもなく恐ろしいので、舌打ちなんてしようもんなら直ぐ様ナイフが飛んできそうだ。
小さく嘆息して彼は懐を探り、少々小さめの箱を少年に投げてよこす。


「それ、隼人にあげる。これでプラマイゼロな」


そう言って渡されたものは、彼が愛用してるであろう煙草のケースだった。
この状況に直ぐにはついていけずにほんの少しほけっとしていたものの、なんとなく中の一本をつまみ出してくわえる。ライターを取り出して火を点けて深く吸い込むと、途端に眉間に皺を寄せた。


「…どんだけ濃いの吸ってんだよ」
「え」













大空の下で

(いつもどおりなんだけどな)
(うわ、マジかよ)