太陽が沈みかけ、空に美しいコントラストを生み出している、夕暮れ時。彼らは川べりを歩いていた。
一人はジャージ、もう一人は黒が基調の詰襟の学生服を、見苦しくない程度に着崩していた。
ジャージの少年は、楽しげに学ランを着た彼に話しかける。少年より若干背の低い彼は、微笑を浮かべながらその話を聞いている。
ふと、彼がおもむろに煙草を取り出して、火をつけた。
隣にいる少年はまだ中学生だ。副流煙を吸い込ませてしまう事を警戒して我慢していたようだが、耐え切れなかったのだろう。


「なあ、冴弥さん?」


紫煙を深く吸い込み、ゆっくりと吐き出す彼を見やり、少年は訊ねる。
彼が少年を見やれば、不思議で堪らない、と言わんばかりの表情を浮かべていた。


「煙草ってそんなにうまいのか?」
「…は?」


いきなりの少年の問いかけに、彼はなんとも間抜けな声を漏らす。
思わず立ち止まり、少年の顔を穴が空くほど見つめる。


「…武、どうしたんだ?いきなり…。熱でもあんのか?」


真剣な表情で問い返された。


「いやさ、いつも煙草吸ってるから、そんなにうまいのかなぁって思ったんだ」
「ああ、そういうことか」


納得したように呟き、茜色の空に紫煙を吐き出す。


「…煙草がうまいからっつーか…煙草に依存してるって言ったほうが合ってるな」
「依存?」


ふっ、と呟かれた言葉に、少年は首を傾げる。


「そう、依存。
武も、野球が好きで好きで堪んねぇだろ?前は腕折れたぐらいで、自殺しようとしてたぐらいだしな」


似たようなもんさ、と少年に言葉を投げかける。


「…依存、か」












夕暮れの一時

(武も吸ってみるか?)
(いや、遠慮しときます…)