俺の左足は母さんを錬成した時、右腕はアルの魂を錬成した時に真理に持っていかれた。
他の奴が機械鎧でも気にならないのに、メティの事だけは何故か気になるんだ。


アメティスタ=リデル。アメストリス国軍中将。国家錬金術師で、二つ名は灼眼。年は21。イシュヴァール殲滅戦に参加していた。右手足が機械鎧。
現在は東方司令部勤務。階級上、あの無能大佐の上司にあたる。俺が国家資格を取る前は、メティが最少年国家錬金術師だった。
最少年でイシュヴァールに参加して、最少年で将軍クラスまで昇格した。あの無能大佐が一目置いてる。
俺はメティに関して、これだけの情報を持ってる。
イシュヴァールの内乱に参加してたなら、普通は其処で失ったものだと考えるだろう。けれど、何故か俺はそうじゃないと思っていた。イシュヴァールで失ったのだろうと思うほど、自分の中で違和感を感じるのだ。
考えたところで、埒があかない。こうなれば、直接訊いてみるしかない。


「…つーことで、こうして俺のところに来た訳だ」


東方司令部の中庭で、アメティスタ=リデル中将はのんびりと煙草をふかしていた。形式上は部下にあたる、東方司令部でサボリ魔と有名なロイ=マスタング大佐が例のごとくサボっているため、上司のアメティスタは暇なのだ。
たった今、リザ=ホークアイ中尉の手によって執務室に缶詰になっているであろうロイが書類を仕上げなければ、アメティスタにやるべき事は無い。いつもはジャン=ハボック少尉と煙草をふかしているのだが、今は溜まった書類と格闘している。
そんなアメティスタを見付けたエドワードが、がっしと軍服を掴んで一気に捲くし立てたのである。


「ああ、そういうことだ」


それにしても、思い立ったが吉日、とはよく言ったものだ。エドワードの行動力にはいつも驚かされる。子供の直感力も中々侮れないものがある。エドワードが俺に聞かせた持論も、半分は正解だ。
しかし、流石に誰が聞いているかも判らない中庭なんかで話す訳にはいかない。銜えていた煙草を消し、よっこらせと立ち上がる。俺が使っている執務室にエドワードを連れ込み、部下に人払いをさせた。まあ、これで此処での会話が外に漏れる事はなくなった。


「…で?実際のところどうなんだよ」
「相変わらず直球だな、おい」


遠慮ってもんを知らないのか、と溜息をひとつ吐く。応接用に用意してあるソファにどかりと座り込み、向かいの席をエドワードに促した。
自分を落ち着かせるように煙草に火を点け、紫煙を深く吸い込んでゆっくりと吐き出す。


「…確かに、右足はイシュヴァールで使い物にならなくなった」


右膝の少し上辺りにナイフを突き立てられてな、神経が切れちまった。だから、軍医に言って切断したんだ。動かない足をぶら下げて戦えるほど、俺は器用じゃなかったからな。片足が無くなってからは、狙撃主として戦場にいたよ。
そう言って、アメティスタは右足の機械鎧の付け根をさする。痛みを思い出したのだろうか。


「右足がイシュヴァールなら…右腕、は」
「右腕は…お前と同じだよ」


真理に、持っていかれたんだ。













魔法使いは禁忌を侵すものだから

(弟を、錬成した)
(たった一人の、弟だったんだ)