僕がまだ7歳の頃、彼は突然現れた。
きらきらした長い銀色の髪に、夕焼け色と血の色を混ぜたような緋色の瞳をしていて、左目から頬にかけて文様があった。
400年前に一度だけ、じいちゃんは会ったことがあると言っていた。その時に百鬼夜行に誘ったけど、断られちゃったんだって。
彼の事はどの妖怪もほとんど知らなかった。
判っているのは、兄がいることと、その兄が陰陽師に仕えていたことと、あの安部清明と仲が良かったらしいということだけだった。
そして、初めてじいちゃんが彼に会った時、探し人がいるのだ、と言っていたそうだ。






◇      ◇






「ねぇ、白緋?」
「おう、どうした?若」
「白緋は誰を探してるの?」
「…総大将に訊いたのか」


とある昼下がり。縁側に座って雪女の入れてくれたお茶を啜りながら、僕は隣に座る白緋にそう訊いた。
白緋がうちに来てからもう4年が経つ。一応奴良組所属って事になってるみたいだけど、白緋はじいちゃんじゃなくて僕の下にいるんだ、って言ってる。
でも、僕は白緋についてほとんど何も知らない。だから、知りたいんだ。
梃子でも動かないと悟ったのか、はあ、と溜息と吐いて白緋は湯呑みをことり、と置いた。


「俺が探してるのは、かつての兄様(あにさま)の主だよ」
「お兄さんの?でも、とっくに亡くなってるよね?」
「…輪廻転生、って言葉、知ってるか」


人の魂は死した後黄泉へと逝き、やがて再びこの世に生まれ落ちるのだという。
兄様(あにさま)の主――昌浩は、その輪廻転生によって戻ってくるから、また会おうと兄様(あにさま)に言ったそうだ。
あれからもう千年も経ってる。だから、もう生まれていてもおかしくはないはずなんだ。


そう言って微笑んだ白緋の瞳は、とても優しい光を宿していた。
その時僕は、唐突に理解した。白緋がどれほどお兄さんを大切に思っているのかを。白緋がお兄さんの主を探しているのは、お兄さんの為なのだと。












「ぼくは過去を知らない」「でもわたしは未来を知らない」

(僕は白緋に何があったかなんて知らない)
(けれど、これから先になにが起こるかなんて、誰も知りはしないんだ)