パドキア共和国、ククルーマウンテン。その山頂に、かの有名なゾルディック家の屋敷があった。
標高の高い山頂であるために冬はとても冷え込み、何処よりも早く雪が降る。
そんな屋敷のとある一室に、彼――ゾルディック家の次男坊、レイスはいた。


「流石に、此処は雪降んの早いな」


カーテンを閉めようと窓に近寄った時、見たのはちらちらと舞い落ちる白い結晶だった。
そういえば、今夜はいつもより少し冷える。なるほど、これは雪のせいだったのか。
窓の外をしばらくぼうっと見つめるが、しゃっ、とカーテンを閉めて視界を塞いだ。ぼす、と部屋の隅にあるベッドにダイブする。
普段は三つ編みにしている長い襟足の髪が、さらりと背中に広がった。


雪は、あまり好きじゃない。
自分が穢れているのを再確認するから。
戦闘中に血を浴びるのは、嫌いじゃない。
けれど、雪上に血が一滴でも落ちると、途端に穢らわしく思えてくる。
俺は、雪の上に落ちた血の一滴。
兄さんが闇人形だというのなら、俺は闇に生きる獣だ。
俺は――


瞳を閉じる寸前、軽い、遠慮がちなノック音が聞こえた。
緩慢な動きでのそりと起き上がり、かちゃりとドアを開ける。扉の前に立っていたのは、目に入れても痛くないと溺愛している、弟のキルアだった。
年の頃は10を過ぎたあたりだろうか。父親譲りの銀髪に翡翠色の瞳。ゾルディック家の子供でこの色を持っているのは、レイスとキルアだけだ。
レイス曰く、くりくりしたつり目にふわふわした癖毛、気まぐれな性格が猫そのもので可愛らしいのだという。


「どうした?キル。子供はもう寝る時間だぞ」


目線を合わせるようにしゃがみこんで小さく微笑み、わしゃわしゃと頭を撫ぜてやれば、気持ちよさそうにとろりと瞳が閉じられる。
そのまま甘えるように首にしがみつく。ふにゃりと脱力しているところを見ると、どうやら大分眠いようだ。
ぽふぽふと一定のリズムで背中を叩いてやれば、あーともうーともとれる声で呻く。ああ可愛い。


「キル?」
「きょーは…れいにいとねる…」
「…」


なにこのかわいいいきもの。我が弟ながら可愛すぎる…!
キルアの睡魔を押し退けながら呟かれた舌足らずな言葉は、レイスにクリーンヒット。まさにど真ん中ストライクであった。
思わずぎゅう、と抱き締めた後、ひょい、とキルアを抱き上げてベッドに優しく横たえる。
部屋の照明を全て落とし、キルアの隣に潜り込んだ。ふわりと掛布をかけ、キルアを優しく抱き寄せた。


「おやすみ、キル」













寒さを凌ぐように君を抱いた

(俺の最愛の弟)
(どうか、この子だけは穢れを知らずにいてほしい)