「やあ、遊びに来たよ」


此処は尸魂界精霊廷十番隊隊舎の執務室。
扉に向かって正面に位置する机には、翡翠の瞳を持つ(見た目は)少年が座っていた。
その机の前に置かれているソファには、豊満な胸を惜しげもなくさらけ出しているくすんだ金糸の女性がいる。
どちらも、零れ落ちてしまいそうなくらいに目を見開いていた。


「あんた…何で此処にいるの?」
「それより、どうやって此処に来たんだ」


無理もないだろう。
たった今扉を開けた彼は、本来ならば此処にはいないはずなのだから。


「何で、は冬獅郎に会いたかったから。どうやって、は普通に穿界門を通って」
「普通にって…!地獄蝶いなきゃ正規ルート通れねぇだろ!?」
「それに穿界門だって、開けられる訳ないじゃない!」


彼らにとってそれは有り得ない事であり、だがしかし彼はその有り得ない方法を用いて此処にいる。
彼は小さく首を傾げ、ぴんと伸ばした人差し指を口元に持っていく。
所謂「静かに」「内緒」といった時に使われるジャスチャーを示し、くすりと猫を連想させる金晴眼(きんめ)を細めて笑う。


「企業秘密、だよ」






◇      ◇






で、何故俺は隊舎の屋根の上にいるんだろうな。
隣りには死神とも人間ともいえない、どっちつかずな奴――慧斗がいる。
本当に不思議な奴だ。地獄蝶無しで正規ルート通ってきたらしいし、そもそも穿界門を開けられるなんて驚きだ。
一番不思議なのは、そんな奴に俺が惹かれてるらしいということ。ていうか根本的におかしい。俺も慧斗も男だ。
冬獅郎に会いたかった。そんな言葉一つでときめくなんて、俺は乙女か。


「ねえ、冬獅郎?」


…びっくりした。いきなり声かけんなよ、ちくしょう。


「何だよ」
「冬獅郎の瞳と髪の色、生まれつきなんだよね?」
「…それがどうかしたか?」


何だ、そんなことか。思ってたことがそのまま声に出てるのかと思った。
慧斗はくすりと小さく笑い、俺の髪を指先で弄ぶ。


「綺麗だな、って」


太陽に反射してきらきらしてるんだ。
そう言って、俺の髪に口付けた。
その瞬間、俺は硬直した。顔に熱が集まる。絶対今物凄く顔赤いだろう。ああ恥ずかしい。
でも、


「俺は、お前の金晴眼(きんめ)のほうが、綺麗だと、思う」


って何口走ってんだ俺!ああ、ますます恥ずかしくなってきた。
慧斗はぽかんとした顔をしていたが、それも一瞬で喜びの色に染まった。
今の言葉一つで、目の前の小さな少年がますます愛しく思えてくるのだった。
思わずくすくす笑うと、咎めるように翡翠の瞳が此方を見る。
その顔は、未だ朱色に染まったまま。


「可愛いね、冬獅郎は」


その両頬を自らの両手で包み込んだ













翡翠色金晴色

(翡翠に口付ける金晴色(きんいろ))
(唇が離れたと同時に翡翠を抱きしめた)