赤、紅、朱、赫、緋、赭、赧、あか、アカ。 壁に飛び散り、そのまま重力に引かれて流れ落ちる。 流れ落ちたソレはやがて面積を広げていき、床の溝に入り込んで部屋中に広がっていく。 息が詰まるほどの鉄の臭い。閉め切っているために、逃れようなく部屋に満ちていく。 そのアカの中心に、2つのカタマリがあった。 元々は動いていたであろうソレも、今は微動だにすることなくその場に佇んでいる。 ぽたり、ぽたり、と銀色に光るソレから、アカイ雫が流れ落ちる。 アカに塗れた少年は、己の手にある銀色をぼうっと眺め、自らのようにアカに塗れたソレをぐっと握りしめた。 「僕が…やった」 「僕が…父さんを」 「僕が…母さんを」 「僕が…殺した」 「どうして、こうなってしまったんだろう」 ああ、そうだ。 僕と姉さんは、訳も解らずに父さんと母さんに殴られていたんだ。 毎日のように殴られていた。食事は普通に出たけれど、風呂は2人で30分以内と決められていた。 そして今日、姉さんが殺されかけた。父さんがナイフを握っていた。 母さんは父さんの横で、にやにやと笑っていた。いやな笑い方だと思った。 このままでは姉さんが殺されてしまう。そう思った時、僕は躊躇うことなく父さんからナイフを奪い、その胸に沈めた。母さんにも同じことをした。 血溜まりに倒れた父さんと母さんは、涙を流していた。 「ごめんなさい… ありがとう」 それが、父さんと母さんが残した、最期の言葉だった。 「ごめんなさい」は、僕達への謝罪だということは何となく判った。 ならば、「ありがとう」は何に対する感謝なのだろう。 「わからないよ…。父さん…母さん…」 父さんと母さんの涙の訳も、「ありがとう」の意味も、わからないよ。 僕は、まだ子供なんだから。大人のことなんて理解できない。 父さんと母さんの残した言葉の意味を、僕は血に塗れたまま、ナイフを握ったままずっと考えていた。 「姉さん」 「何?修」 「僕はね、あの日からずっと考えていたんだ。10年間ずっと」 「…父さんと母さんの言葉?」 「そうだよ。そして見つけた気がするんだ。あの言葉の意味を」 「聞かせてくれるでしょう?」 「もちろん。…あれは、『自分達を止めてくれてありがとう』ってことだと思うんだ」 |