幼等部に始まり、初等部、中等部、高等部、大学部までの大規模なエスカレーター式の、国立白木蓮学園。
この学園の高等部に妃泉修が、大学部に姉である妃泉桜がそれぞれ籍をおいていた。


白木蓮学園は、それぞれに昼食のシステムが異なる。
幼等部と初等部では、昼食時に給食が出される。
中等部は弁当持参、もしくは購買部からパンなどを購入する。
高等部と大学部は共用の食堂が用意されており、持参した弁当をそこで食べたり、普通に食堂で販売しているランチを頼むことが出来る。
高等部と大学部が近いということも重なり、妃泉姉弟が学園内で鉢合わせる事がよくあった。


五月。
薄桃色の花弁も散り、深緑の葉が陽光を受けて輝く。
春と初夏に挟まれ、もうじき空が泣く季節が来るころ。
食堂と呼ぶには些か広すぎるホールに、大勢の生徒が訪れていた。
そして、見目麗しい姉弟が、幾度目かの会合を果たした。


「…」
「…」
「…また会ったわね、修」
「…そうだね、姉さん」


姉弟の間に妙な空気が流れた。彼らの周囲はそれに反してざわめいている。
その整った容姿故に、彼らは一人でいたとしても周囲の視線を集めていた。
そんな二人が並べば、視線が彼らに集中するのは必然だといえるだろう。
彼らの、双子のように瓜二つな顔貌もまた、視線を集める原因となっている。
いつもいつも騒がしく、授業中さえ時折ざわめく周囲に、桜と修はうんざりしているのだ。


「ここまできたら、もう開き直るしかないと思わないかい?姉さん」
「そうね。私達には騒がれるだけの価値があるのよ」
「そうでなければやってられないよ」
「お互いに図太い神経してるわね、私達」


小声でそう交わして、くすくす笑う。
純粋な微笑のように見えるけれど、その思考は真っ黒なのだろう。
二人の微笑に、周囲はまたざわめく。
彼らの微笑には結構な破壊力があるのだ。
そんな群れに対し、二人は嘲るように口元を歪ませる。


「本当、愚かね。彼らは」
「愚かだ。それ故に僕達に遊ばれる」
「何だか私達、悪魔みたいね」
「悪魔、か。いい喩えだね、姉さんにしては珍しい」
「失礼ね、仮にも姉に向かって」
「冗談さ。そんなに怒らないでよ」


後半から、周囲に聞こえるように言葉を交わす。
仲の良い会話にしか聞こえぬ言葉の裏は、姉弟のみが知っている。













悪魔の姉弟



(甘い言葉で人を惑わし、死神から魂を掠め取る)
(まるで僕達のようじゃないか)