「姉さん」 「何?修」 「人は眠るとき、どんな感覚を持つのかな」 あ、石化した。姉さんはこういうの苦手だからな… と思えば、今度は頭を抱えて唸り始めた。 レポートを書くときですら、ここまで悩んでいるところは未だ見たことはない。姉はそこそこ優れている。 どうやら姉は、こういった心理的だったり、比喩的なものが駄目らしいと知ったのは最近だった。 そういえば、姉は昔から詩や物語の系統の作成を苦手としていた。姉は理数系だ。文学はてんで駄目だった。 僕はこちらの方が得意なのだのだけれど。 「えと、修。つまりどういうこと?」 ようやく口を開いたと思ったら、随分と間抜けな返答をしてきた。 5分近く考えた答えがこれとは、我が姉ながら呆れてしまう。 「あー、うん。ごめん。姉さんに訊いた僕がばかだったよ」 はあ、とため息を吐いてそう言うと、姉さんはむうとむくれた。 「ばかとは何よばかとは」 「別に姉さんに対してばかと言ったわけじゃないよ。ただ、こういう事を姉さんに訊いた僕がばかだと言ったんだ」 「さりげなく私にばかと言ってんのよ、その言葉は」 「よく気付いたね。国語苦手なのに」 「修、あんた本当に私の事ばかにしてるわね」 姉さんは国語は苦手だけれど、こういう言葉のやりとり、つまり口喧嘩は得意だったりする。 僕は始終無表情で、無駄に感情を込めた声で言葉を発する。 姉さんは常に不敵な笑みを浮かべ、時折鼻で笑ったりするけれど、声には全く感情が籠らず棒読みだ。 3つも年齢が違うのにも関わらず、双子のようにそっくりな僕達の僅かな違いの内の一つが、この喧嘩するときの態度だったりする。 傍から見れば、どこかちぐはぐな印象を受けるのだろう。 けれど、今こんな悠長なことをしていてもいいのだろうか。 「姉さん」 「何よ」 「バイト、行かなくていいの?」 「…あ」 「そろそろ行かないと遅れ「そういうことはもっと早く言いなさいよ!」 遅刻ー!と叫びながらばたばたと家を駆け回り、財布をかばんに放り込み、玄関を蹴飛ばして出て行った。 |