君がいなくなって、どれほどの時が過ぎたのだろう。 君に会いたい。けれど会えない。 狂おしいほどの君への想いの炎がこの身を焼く。 心の死んだ抜け殻のような僕は、君への想いだけでモノクロの世界を生きていた。 君に、会いたい。ただそれだけなんだ。 君に、会いたい。こんな色褪せた世界でも、生きていれば君に会えると信じていたから。 君に、会いたい。たとえ君は僕に会いたくなくても。 君に、会いたい。一目でもいい。君が僕に気付いてくれなくたっていい。言葉を交わせなくたっていい。 君は今何処で、何をしているんだろう。 君は今、幸せなのだろうか。 君は、君の瞳には、この世界はどう映っているのだろうか。 ふいに、インターフォンの軽やかな音が鳴る。 気乗りはしないが、郵便物の類だったらやっかいなので居留守は使わずに、のそのそと玄関に向かう。 面倒だったのでモニターも確認せずに、男だから対処できるだろうとチェーンもかけずにがちゃりとドアを開けた。 「…久しぶりね」 会いたいと願っていた君が、少し苦笑気味に、そして申し訳なさそうに微笑んでいた。 正直なところ、君が今僕の目の前にいるなんて、信じられなかった。 夢かとすら思った。だからなのかは判らないけれど、思わず君を抱き締めた。 忘れもしない、君の温もり。急に抱き締めてきた僕に、何も言わずに君は僕の背に腕を回してくれた。 そんな君の変わらない優しさに、情けないけれど、僕は涙を流した。 「会いたかった…」 君に。君だけに。ずっと会いたいと願っていた。 僕の瞳から溢れた雫が、君の小さな肩を濡らす。君に縋り付いて小さく震えながら泣く僕を、君はそっと抱き締めてくれた。 「ごめんなさい」 震える僕の背を撫ぜながら、僕の耳元で君は囁いた。 急にいなくなってごめんなさい。 決して貴方のことを嫌いになったわけじゃないの。 けれど、貴方は自分の才能を既に見出して、世界にその名を轟かせているでしょう? そんな貴方を見ていて、私は自分がとても情けなく見えたの。 私は何もできない。色褪せた世界の中で、貴方だけがとても輝いて見えたわ。 貴方が私のことを愛してくれているのは解かっていたし、私も貴方をとても愛してる。 だからこそ、私は貴方が見ている色付いた世界の中で、輝いていたいと思ったの。 輝いている貴方に見合う女に、私はなりたかったのよ。 貴方に何も言わずに傍を離れたら、貴方はきっと壊れてしまうと思った。 本当は、貴方の傍を離れるなんてしたくなかったわ。 けれど、貴方に情けない姿を見せたくなかったし、見られたくなかった。 全部、私の我侭。 赦してほしい、なんて身勝手なことは言わないわ。けれど、知っていてほしかったの。 今も変わらずに、貴方を愛しているわ。 君はそう言って、僕の頬に一つ、優しいキスを落とした。 君の肩に埋めていた顔を上げ、まだ流れている涙はそのままに、僕は微笑んだ。 きっと酷い顔をしているだろう。けれど、そんなことはどうでもよかった。 君の言葉が、とても嬉しかったんだ。 君のいない日々はとても辛かったけれど、こうして今君に会えた。 君がいなくなった訳が僕だなんて、不謹慎だけれどとても嬉しい。実際に、君はまた美しくなった。 不安そうに僕を見上げる君の額に、優しくキスを落とした。 「愛してるよ」 僕が君を赦さないなんて、そんなことあるわけがないだろう? |