ふ、と閉じていた瞼を持ち上げれば、見慣れた天井が瞳に映る。窓からの光を見て、どうやら少々寝過ごしてしまったらしいと、未だ覚醒していない頭で思う。
いつもならば飛び起きる状況だが、冬獅郎は布団の中でぼうっとしていた。今日は非番なのだ。乱菊に任せておくのは物凄く不安だが、随分と有給も溜まっていたので休むことにしたのだった。
休みなのだし、惰眠を貪るのもたまにはいいか、ともう一眠りしようかと寝返りをうつ。そこで視界に入ったのは、死覇装の漆黒。視線を上げれば、黒髪に金晴眼(きんめ)の青年。


「あ、冬獅郎。おはよう」


目が合った瞬間、青年はにこりと微笑んで何もなかったかのように挨拶をした。
寝起きの頭では素早く処理できず、暫く呆然と青年を見つめていたが、ふいにかっ、と瞳を見開いてがばっと飛び起きる。
そんな冬獅郎の様子を、ただにこにこと青年は見ていた。


「何でまた尸魂界にいるんだ!慧斗!」
「何で、って言われても…冬獅郎に会いに来ただけだよ?」
「それは前にも聞いた!ていうか何で俺の部屋にいるんだ!?」
「乱菊さんに冬獅郎は非番だ、って聞いたからね。あわよくば寝顔を拝めるかなー、なんて…」


可愛かったよ、なんて返答は求めてねぇ…!松本め、余計なこと言いやがって…。こいつの笑顔がここまで憎たらしく見えたのは初めてだ…
すっかり目が覚めてしまった。俺は溜息と共に頭を掻き毟る。立ち上がって布団を片付け始めると、慧斗が無言で手伝ってくれた。
顔を洗って部屋に戻ると、何処から出したのか俺の小袖を片手ににこにこしてる慧斗が。一体何がしたい。


「折角非番なんだし、これ着て僕とデートしよう」


折角ってなんだ折角って。つーかデートってお前、男同士はデートって言わねぇ…!






◇      ◇






精霊廷内のとある甘味処。座敷風の店内のとある一角に、慧斗と冬獅郎はいた。
冬獅郎の前には小さめの抹茶パフェが、慧斗の前には宇治金時あんみつが置いてあった。どちらも注文したのは慧斗だ。
慧斗はにこにこと、冬獅郎は仕方なさそうに、対照的な表情で甘味に手をつけていた。


「つうか…何で甘味処に来たんだ?」
「小腹がすいたから」


冬獅郎の小さな疑問に慧斗は即答する。そんな慧斗に冬獅郎は溜息を吐く。
時折、慧斗が投げかける言葉に不機嫌そうに言葉を返しながら、もくもくと匙を動かした。
勘定を済ませて店を出ると、慧斗はぐぐっと大きく伸びをした。ふう、と息を吐いて力を抜く。


「十番隊隊舎の屋根の上、行かない?」
「…何で屋根の上なんだ?しかも十番隊隊舎の」
「僕、屋根の上好きなんだよね。それに、」


十番隊は冬獅郎の隊でしょ?
そう言うと、一気に真っ赤になった冬獅郎が可愛かった、なんて言ったら怒られちゃうな。
冬獅郎がこんなに可愛いことを知ってるのは、僕だけで十分。もう、逃がさないから。覚悟しておいてね。













閉じ込めたなら逃がさないで



(くす、と笑って、僕は冬獅郎の額に口付けた)
(怒ったように俯いたけど、耳が真っ赤だったのは、僕だけが知っている)