「「これからは独りで抱え込むな!」」 いつの日か、幼き頃に交わした約束。 君は憶えているのだろうか。 互いにそう言って、笑い合ったあの頃。 橙色の髪。金晴色(きんいろ)の瞳。 僕達は、それぞれが疎まれるに足る原因を持って、この世に生を受けた。 だからこそ、痛みは分け合おうと決めた。 僕達は互いの痛みが解るから。 「慧斗ー」 「ああ、一護」 「帰るか?」 「ごめん。今日は先に帰ってて?」 当時、中学二年生だった彼らは、いつものように授業を終え、帰り支度を始める。特に約束をしていたわけではないけれど、いつの間にか一緒に家路を辿るのが当たり前になっていた。 とはいっても、お互いを縛り合っているつもりはない。だからこうして一人で帰ることもあるが、それはそれだ。自分の荷物を持ってそそくさと教室を出て行く慧斗を見て、一護は不審に思った。 今日は委員会はないはずだし、慧斗は部活動にも所属はしていない。習い事をしているという話も聞いたことはない。そもそも、やましいことがないのならあんな風にそそくさとした行動など、するはずがない。 結論。慧斗は何かを隠している。 そこに辿り着いた瞬間、一護は駆け出した。こういう時に慧斗が何を隠しているかなんて、すぐに判る。 同じ状況に自分が立っていたなら、迷わずに慧斗と同じ行動をとっただろうから。 見苦しいほどに着崩された制服。注視するまでもなく、あらゆる箇所に改造の後が見える。むしろ歩きにくいだろうと言いたくなるくらいに下の位置で穿いているスラックスは、見ているだけで引き下げて下着を晒してやりたい衝動に駆られてしまう。揃いも揃って派手な色に染めている頭は、ただの馬鹿丸出しだ。 「はっ!本当に一人で来やがったぜ」 「貴方達が一人で来いと言ったでしょう」 「腰抜けのお前のことだからな!信じるわけねぇだろ!」 そう言って下品な笑い声を上げる下品な馬鹿が5人。ああ、本当にこの馬鹿共は暇なんだね….。生きる価値も無い馬鹿を見ていると、いっそ憐れに思えてくるよ。この馬鹿達の脳味噌は鼠くらいなんだろうな。ああ、そんなこと言ったら鼠が可哀想だ。 なんて、慧斗の頭が悪魔も怯えて逃げていってしまいそうな真っ黒な思考に塗り潰されているとも知らず、慧斗曰く馬鹿共は笑い続ける。 この場を冷静に見つめることの出来る者なら気付いただろう。慧斗のそれはもう恐ろしい真っ黒な微笑に。 「それで?僕に一体何の用ですか?」 慧斗がそう声をかけると、5人はぴたりと笑うのを止めた。 にやにやとこれまた下品な笑みを浮かべて、じりじりと慧斗に詰め寄る。 「んなこた訊かなくたって判ってんだろォ?」 「お前のその瞳が気にいらねぇんだよ!」 「中坊のくせにカラコンなんか付けやがってよォ!」 「生意気なことしてんじゃねえよ!」 「調子乗んなよガキが!」 本当に救いようがないね。少し挑発しただけでこの有様か。ご丁寧に一人ずつ喋ってるし。 ていうか、これは生まれつきだって何度も言ってるのに。理解力に欠ける馬鹿達だね。わざわざカルテまで見せてあげたのになぁ… 僕がわざわざ高いカラコンなんか付けるわけないのに。そんなの買うお金があったら、生活費に回すに決まってるのに。 慧斗を見つけたのは、とある河原の橋の下だった。なんてベタなんだ。思った通り、慧斗は5人の高校生に囲まれていた。所謂リンチだ。 この髪や慧斗の瞳を見て、こうして喧嘩を売られた回数は、決して少なくはなかった。慧斗もめちゃくちゃ喧嘩は強いが、流石に5対1は分が悪いみたいだ。相手にもかなりの痛手を負わせてはいるが、慧斗自身の怪我も多い。 頭で考えるよりも先に、俺は慧斗の所へと駆け出していた。相手が怯んだ隙に顔面に一発、思いっ切りぶちかましてやる。 「てめっ!黒崎一護!」 「何だよ慧斗!水くせーじゃねーか!」 「何も言わなくたって、一護なら来るって信じてたからね」 俺の名前を叫んだ奴なんか完全スルーで、俺は慧斗の肩を軽く叩く。そうすれば、慧斗は底意地の悪そうな笑みを浮かべた。これだから慧斗は敵に回したくないんだよな。 周りの連中がぎゃーぎゃー騒いでんのなんて総無視で、俺達はいつものように背中合わせに立つ。多数を相手にするときはこの方が、なにかとやりやすい。 「そんじゃ、暴れるか!」 「さっさと片付けよう。僕お腹減った」 お前の腹優先かよ! |