そして、全てが始まる | ナノ
沈黙に耐え切れなくなったのだろう、綱吉が冴弥のいなかった間に起こったことを話して聞かせた。
トマゾファミリーのアジトに殴り込み、しばらくした後に並中生が襲われるようになったこと。
襲われた人は歯が抜かれていて、その歯がカウントダウンになっていたこと。そのカウントダウンはフゥ太のランキングの情報だったこと。
九代目の勅命が来たため、綱吉、隼人、武、ビアンキ、リボーンで首謀者のいる黒曜ランドへ行ったこと。
そこで待ち受けていた、復讐者からの脱獄犯と戦ったこと。黒幕の六道骸と戦った時、新たな力を手にしたこと。
六道骸を倒し、彼らの過去を聞き、復讐者が来て彼らを連れ去り、全てが終わったこと。


「六道骸、か」
「冴弥さん知ってるの?」
「ああ、いろいろやらかしたってな。エストラーネオファミリーの奴だったのか…」


エストラーネオっつったら、人体実験を繰り返し行ってた最低なところだ。自分のシマの子供を誘拐して実験体にしてたらしい。
そう言うと、綱吉の顔からさっと血の気が引き、ナルトはその行為の愚かさに顔を歪めた。その様子を見て、一時期エストラーネオのシマにいたことがあり、誘拐されかけたことがあることは伏せておくことにした。
先程とはまた違った沈黙が訪れるが、そういえば、と綱吉が思い出したように零した言葉によって破られた。


「ナルト君って、マフィアが何なのか知ってるの?」
「…よくは知らないが、忍みたいなもんだろ?」
「…そうなのかな…?」
「まぁ、忍でいうBランクから上のことをやってんのがマフィアだな。ナルトの捉え方は間違っちゃいないが、忍とマフィアじゃあ根本的に違う。
俺達ボンゴレはヤクはやらないが、他のファミリーじゃやってるところは多い。それに、基本的にマフィアって聞いたら犯罪者の集団だってイメージが強い。
忍は里や国を守るためにいるだろ?だが、俺達は基本無法者さ。掟はあるがな」


俺とナルト君の疑問に、すらすらと冴弥さんが答えてくれた。
今更だけど、俺ってマフィアについて何も知らないんだな…。


「ま、後は二人で仲良く話すといい」


ぽん、と膝を叩いて冴弥さんはそう言うと、ニコチン不足だ、と言って煙草を吸いに行ってしまった。って、俺とナルト君で一体何話すんだよ…!話題なんか無いのにー!
俺があわあわと慌てふためいているのを、ナルト君はじっと見ている。視線を感じた俺は急に恥ずかしくなった。だって俺の方が年上なのに情けない…!


「綱吉…」
「うえっ!?」
「…だったよな」


いきなりナルト君が話しかけるもんだから、つい妙な声が出てしまった。ますます恥ずかしい…!
俺の妙な声に驚いたのか、ナルト君の声のトーンも少し頼りなく聞こえた。そんな声を聞くと、年相応なんだなー、と思う。言おうかどうか躊躇っているように見えたので、遠慮はしなくていいよ、と言えば小さく微笑んだ。…美少年が笑うと可愛らしく見えるのは俺だけかな…。


「以前、冴弥にお前の話を少し聞いたんだ」
「冴弥さんが、俺の話を君に?」
「ああ」


いずれ大空の称号を継ぐ優しい奴だと、言ってたんだ。その時の冴弥の表情から、どれだけ大切な奴なのか判った。
そして今、冴弥の言っていたことがよく解った。ほんの少ししか言葉を交わしていないけれど、とても優しい奴だと思ったんだ。


「綱吉が俺の世界にいたとしたら、どうなったんだろうな」


優しい世界になっていたのでは、と思う。綱吉の優しさで救われる人が、果たしてどれほどいるのだろうか。
俺も、シカマルも、うちはも、日向も、もしかしたら大蛇丸でさえも、綱吉に感化されてしまうのではないだろうか。


「まさに、大空だな」


そう呟いたナルト君は笑っているんだけれど、今にも泣いてしまいそうなほど儚く見えた。はっ、と気付いた時、俺はナルト君を抱き締めていた。何だかこのまま消えてしまいそうだったんだ。
比較的でなくとも小さい俺の腕の中に、ナルト君はすっぽりと納まってしまっている。こんなにも小さいというのに、戦場なんかに出るのだろうか。


「無理、しなくてもいいんだよ」


まだ子供なのだから。無理して気張らなくたっていいんだ。
君に何があったのか、なんて知らないけれど。心に幾重も壁をつくって、幾つもの仮面を被っているのだろう?
時には気を楽にして、誰かに寄りかかってみるのも悪くはないと思うのだけれどね。
甘えたい時は素直に甘えてしまうといい。誰も君を責めたりなんてしないさ。


「泣きたい時は、思いっきり泣いちゃえばいい」


溜め込むと後が辛いよ?涙と一緒に辛かったことや苦しかったことを流してしまえば、とてもすっきりするだろうね。
俺なんかじゃ役不足かもしれないけれど、


「君のたすけになれればいいな」













聞こえない声



(ああ)
(ようやく届いた)




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