今日の晩ご飯はいつもより豪華、なのは気のせいじゃないだろう。

料理の腕も鳴り、胸はどきどき踊っていた。


だって、今日は―――、


『涼太が帰ってくる日だからね』





学生時代はモデルをやっていた彼は、社会人になるとパイロット、という職業に就いた。


どっちも忙しいことに変わりはないのだが、それでも彼をそれをこなして見せた。


だが、支えてきてくれた彼女のことがずっと気になっていた彼は、彼女のことを自分の家に住まわせるという行動に出た。

それは、同棲という状態だった。



だけど、忙しいこの家の主は、彼は滅多に帰ってこない。

同棲しても寂しい思いをさせてしまうのを前提で、彼女にそれを提案した。


その提案を聞いた時、彼女はにこっと笑って受け入れた。

同棲してるのに滅多に会えない、いつ帰ってくるか分からない彼を待つのは苦しい、そんんな思いをするの承知で彼女は、彼の提案を受け入れた。






その滅多に帰ってこない彼が、今日帰ってくる。

無意識に、胸がどきどきした。


毎日メールしていても、寂しくないと言ったら嘘になる。

でも、それを言わないのは、「彼を困らせたくないから」





『(あの提案をされた時は正直、驚いたもん)』

だけど、素敵な話だと思った。


帰りの分からない涼太を待つのは勿論、苦しいことも悲しいことも寂しいこともあった。

それでも、あの提案を受け入れた後悔はしてない。


会えなかった分、会った時が凄く嬉しかったのを私は知っているから。



『早く、帰ってこないかなー、』

心が、体が、あの人を求める。涼太を望んでいた。






そして、ついにその時が来た。



ガチャ、


鍵はしっかり閉めるように彼からよく言われている。

つまり、その扉を開けたのは、合鍵を持ている、彼しかいない―――――




「ただいまっす!!」

『っ、涼太!!』



満面の笑みで帰ってきた彼に彼女は我慢ならず、抱き着いた。

それをやんわり受け止める腕、「待たせたっすね」と言って頭を撫でてくれる手、胸に耳を当てると聞こえてくる心臓の音。


何にもかもが懐かしかった。何もかもが望んでいたものだった。




「ただいまっす」


その言葉だけで、心が幸せになる。

なんて、単純な心を持っていたわけじゃないのに、この人の前じゃ何もかもが無意味。

着飾ってる暇があったら、彼を感じたい。


ずっと待ち望んでたこれが、私の幸せなんだから。

苦しいこともあるけど、その向こう側にあるのは幸せだと知ってるから。


私はいくらでも待ってられる、いくらでも寂しい思いをしてもいい。



『お帰りなさい!涼太』

全部、この言葉で幸せに変わるのだから。








『時間より早かったね、涼太』

「当たり前っすよ、急いできたんすから!」

『そんなに急いで来なくても良かったのに』

「何言ってるんすか!俺の家に住んでくれっていう俺のわがままに付き合わせてるのに、急いで帰ってこないなんて、そんな酷い話ないっすよ!」

『私、何回も言ってるけど、その涼太のわがまま、わがままって感じたことなんか一度もないからね』

「うう…、それは知ってるっすけど…、好きな人を誰にも取られたくなくて、家に縛り付けてるんすよ、そんな酷いことさせてるのに、」

『じゃあ、私はこうして涼太の家にいることによって、涼太を縛ってるんだね。絶対に帰ってきて、って。絶対に帰ってきて、っていうのは私のわがままだよ?つまり、言いたいのは、』

――――涼太が、大好きだってこと。


「!」

『何日だって、何か月だって、何年だって、ここで私は涼太を待ってるから、』

絶対に帰ってきてね、涼太。


「………やっぱり、最高っす。俺、幸せものっすね…」

『それはこっちの台詞だよ、涼太』

「愛してるっす」

『私も』

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テーマ「人外ファンタジー」
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