別に両親に愛されていないわけではなかった、と思う。
ただ顔を合わせる時間が少なすぎて、なかなか話なんか出来なくて…誰もが憧れるような豪邸に私はいつも一人だった。
それでも愛されていなかったと思わないのはただの自己満足に過ぎないのか。
それが当たり前だった私には今でも分からない。

けれど屋敷の中に一人、世界から切り離されたような孤独感を確かに感じていた。だからもしかしたら私は無駄に広い部屋で、こうして目を伏せて泣いていたかもしれない。





けれど、次に目を開けて見えたのは高い天井でも、一人の部屋でもない。
私と一緒に真っ白いシーツに包まれて眠る緑髪の男の人。


(夢なんか久しぶりに見た…)


その人―緑間真太郎の寝顔を見てやっと先ほどまで考えていたのが夢であったと感じ、同時にひどく安堵した。


「…どうした?」
「ごめん、起こしちゃった?」
「いや、勝手に目が覚めただけだ
それより悪い夢でも見たか?
顔色が悪い」


悪い夢―そうかもしれない。
真太郎が私をあの屋敷から連れ出してくれて、同じ家に住まわせてくれて、そうして私はようやく目覚めたのか。


「昔の夢を見ていたの
真太郎が私を迎えに来てくれる前の夢」
「そうか」


真太郎の手が私の頭を撫でた。
人の温もりがこんなにも優しいものだと教えてくれたのは他でもない、真太郎だ。


「私、真太郎と一緒に暮らせて幸せだよ」
「それは俺も同じなのだよ」
「迎えに来てくれてありがとう」


そういえば真太郎は照れたように笑って私を抱き締めた。
真太郎に抱き締められるとすごく幸せな気持ちになる。真太郎もそう思ってたらいいな、なんて思いながら私も抱き締め返す。


真太郎は私に"はじめて"をたくさんくれた。
触れ合う温もりも、笑い合う喜びも。
他の人にしてみたらなんでもないことでも、私にしたら毎日を彩る特別な"はじめて"



それは全てはじめてのこと





20130523
孤独なお金持ち少女と緑間くん

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