机の上に積み上げられた紙の量に、軽く眩暈を覚えた。定時までに終われるかどうか、日付が変わるまでに終われるかどうか、なんて生易しいものではない。……今日は眠れるのかどうか、だ。

非常に面倒な量の仕事を持ってきた上司を見ると、
「できるよね?」
だ、なんて仰りやがりました。いや、やりますよ。やりますけど……!
「副官」
「―――はい。任せてくださいシンク師団長」
僕の副官なんだから、これくらいやってもらわなきゃ困る。とか思ってるんだろうな。暴君め。

「じゃ、僕はしばらく此処を離れるから。後は任せたよ」
「またですか。最近多いですね。六神将の皆さんや総長がダアトに居ないことが」
何か大きな仕事でもあるのかな。おかげさまで私達副官が処理する書類等の仕事が大幅に増えたんだけど。

「忙しいでしょうけど、お体にお気をつけ――シンクさん?」
とりあえず一番上の書類から片付けて行こうと手を伸ばしたけど、ふと視線を感じて顔をあげた。シンクさんは仮面をつけているから口元しか見えないんだけど、仮面越しにまっすぐ私を見ているんだろうと言うことは、雰囲気から分かる。

「ねぇ、アンタは預言のことをどう思ってるの」

彼の唐突な発言に首を傾げた。仕事に関係のない話など、普段しないと言うのに。でもいつも以上に真剣な物言いに、表情に(見えないけど)、少し緊張した。

「預言、ですか。預言は……預言ですよ」
「……何それ。ふざけてんの」
思ったままを口にすれば、彼は不満そうだった。

「シンクさんは、この机や、あの本棚のことをどう思います?」
「……は?」
「何とも思いませんよね。机は机で、本棚は本棚、ですよね。つまりはそういうことです」

だからシンクさんの質問の意図が分からない。

「何も思わないの?遵守しようとかは?」
「……ああ、保守派か改革派か、という話ですか?それなら私はどちらでもないですね。守りたい人は預言通りにすればいいし、選択肢の1つだと捉えたい人は、そうすればいい」
……あれ。こう考える時点で、預言は選択肢だと考えていることになるのだろうか。

「……興味ないってことか」
「つまるところは、そうですね」
毎日毎日預言士のとこに通っている人は理解できないけど、まぁそういう人もいるのだろう。誕生日に詠んでもらうのは当たり前な感じだから、それは私も詠んでもらうけど。

「アンタは……預言に縛られてないんだね」

そう言って、少し遠くを見たシンクさん。彼はさっきから一体何を言いたいのだろう。窺えないその瞳の先には、何が映っているのだろう。ああ、でも――

「シンクさんは預言が嫌いなんですね」

ダアトに属する者が、預言なんてどうでもいい発言をしているのに、咎めるどころか呆れたような素振りもない。それどころか、まるで私の考え方を羨んでいるようにさえ感じる。と言うことは、シンクさん自身は預言に縛られているのだろう。

返事が無くとも、この答えはイエスだと分かった。




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