★小話『銀魂学芸会・西部劇』

ここは忘れ去られた町だ。

この町がゴールドラッシュに沸いたのは遠い昔の事だった。過去の栄華は、乾いた西風に巻き上げられた砂ぼこりと時代の変化に埋もれてしまっている。
ひと気のない寂れた町に動くものといえば、道端を転がる根なし草と飢えた野良犬、そして荒んだ目をしたならず者ばかりだ。

総悟は靴の中に入り込んだ砂に苛つきながら、砂漠越えの疲れのため重い足を進めた。
寂れた町は故郷を思い出させる。

胸糞悪ィ。

吐き出した唾は、乾ききった地面にとどまる事なく、すぐ染みた。



ある一軒の酒場へ総悟は入った。
スウィングドアを押した総悟に、途端、視線が集まる。
どいつもこいつも脛に傷がありそうな野郎ばかりだ。外をうろつく野良犬に似た荒んだ視線を寄越す男達に構わず、総悟は煙草とアルコールの臭いが淀む空気を割いて進む。静まり返った空間に、一定のリズムを刻む靴音が響く。
カウンターの向こうではサングラスをかけた貧相な男が知らない顔でグラスを拭いていた。

「水を」

総悟が言うと、辺りから嘲笑が沸いた。

「″お嬢ちゃん″、生憎ここにはそんなもんは置いてねぇよ」

側にいる男が噛み煙草で茶色い前歯を剥き出し笑う。

「じゃあホットミルクを」

総悟の言葉に男達はますます声高く笑った。
カウンターに寄りかかる別の男が、恫喝するような低い声で言った。

「ママのおっぱいが恋しいか?じゃあこんな所にいねぇで早くお家に帰るんだな」

男の腰にぶら下がるコルトの銃把が鈍く光っている。
総悟は凄む男を暗い目で睨んだ。
その視線を遮るように、カウンターに音を立ててグラスが置かれる。

「…うちにあるのは、これだけだ」

グラスを置いた亭主がボソリと言った。
最初に総悟を揶揄した男は肩を竦めた。それでもまだ口元をニヤけさせている。カウンターに寄りかかる男は油断なく総悟の出方を伺っていた。
総悟はグラスを取り、一気にあおった。
強いばかりの蒸留酒が渇きに荒れた喉を焼く。誰かが高く口笛を鳴らした。

「見かけによらず強いのね、坊や」

バーボンに濡れた口を袖口で拭う総悟の二の腕に、爪の長い指が絡まる。
大きく開いたドレスの襟から厚い胸板を見せ付ける年増が、総悟にしなだれかかった。安物のブレスレットがいくつも巻き付く腕に、黒と茶色の二匹のチワワを抱いている。

「アバズレに用はねぇ」

絡む指を総悟が振り払うと、年増は、つれないのね、と拗ねるふりをした。

「銀時がフラれたぜ」

囃し立てる男達に、年増は

「うるせえ黙れ。殺すぞ」

と口汚く言い返した。主人の怒りを感じたのか、二匹のチワワが鼻に皺を寄せて唸り声を上げ始める。

「ねえ、坊や。名前はなんて言うの」

年増は、唸る犬達を長い爪で愛撫し宥めながら鼻にかかった声を出した。

「なんであんたに教えなきゃならねぇ」

「あら、ベッドで名前を呼べないと困るわ」

ふざけている。
総悟は答える気にならず、まとわりつく年増の体を肘で押し退けた。年増の腕にいる茶色の方のチワワが噛み付こうとしたが、総悟の肘はそれより先に年増の体から離れている。空振りした犬の牙がカチと音を立てた。

「桂を探している」

総悟が発した名前に辺りが再び静寂した。
問われた亭主はグラスを拭く手は止めなかったが、微かに片方の眉を上げている。

「そんな奴は知らねぇな」

亭主はとぼけた。

「知らねぇはずはねぇだろう。奴は高額の賞金首だ。オムツのガキでもその名は知ってらァ」

「物騒な事には関わらない主義でね」

「そいつァ賢明だ。日曜の朝は必ず教会に行く方かィ」

「神は死んだ。もうだいぶ昔にな」

亭主は無愛想な呟きは、変に気が利いている。総悟は喉の奥で笑った。




つづく(たぶん)

(2012/11/27 01:08)



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