★小話『続・かわいい毛』

敷きっぱなしの銀時の布団の下で蠢く気配があったので、新八は布団をめくった。

ソーッとめくった布団 の下にあるものを見た新八は、わっと悲鳴をあげた。

布団の下には



このようなもの(画像参照)がいた。




なんだこれは。
こんなものは見た事がない。

新八は、部屋の隅に視線をやった。



「…………」


そこでは以前同じ経緯で発見した毛が、定春のエサをボリボリ食っていた。

どういう事だ。

新八は、布団の上の新しい毛に視線を戻した。
見ていると、新しい毛は短い足のためかバランスを崩して布団の上にコロンと転がった。転がった毛は、真ん丸な体をもっと丸くして自分の股関を舐めたりした。
カワイかった。

銀時はもう何日も帰っていない。
だから新八も神楽も以前発見した毛を、薄々銀時なのではないかと思っていた。口には出さなかったが、ほとんど確信に近く思っていた。
だがしかし。
今ここに、新たな毛が発見された。
あの毛は銀時ではなかったのか。正しくはこの毛が銀時なのか。或いは、やはりあの毛が銀時であって、この毛は銀時とは無関係な別の毛なのか。

茫然と立ち尽くす新八。
その爪先を新しい毛がクンクン嗅いで、それからちょっと噛んだ。

「いてっ」

新八が声をあげると、毛はピュッと逃げて距離を取り、ウーと唸った。
しかしそのくせ、毛に覆われてよくわからんが、しっぽに相当すると思われる部分をしきりにフリフリしていた。

かっ…
カワイイ。

新八は堪らず新しい毛を抱き上げた。毛は嫌がって暴れたが、相変わらずしっぽはフリフリしていた。
堪らないツンデレ具合だった。

「神楽ちゃん!神楽ちゃん!!」

と新八は、隣室のソファで酢昆布の表面だけをねぶり、ねぶったものをテーブルに並べていくという作業に勤しんでいた神楽を呼んだ。
そうやって乾かした昆布はまた箱に詰め、気が向いた時に改めて食べるのだ。

「なにアルか。私はお前と違って忙しいアル。気安く呼ぶな」

と和室に入って来た神楽は、入ってくるなり新八が抱っこしている毛を見つけて

「ワア!カワイイ!」

と、いきなり女子に戻って黄色い声を出した。

「どうしたアルか?これ、どうしたアルか?」

「…またいたんだ、ここに」

新八が銀時の布団を示した。
神楽は、そうアルか、と新八の説明にさしたる興味も示さず、新八が抱く毛を奪い取った。

「あっ」

「名前は何にするアル?」

神楽は、短い手足でおぶおぶ暴れる毛を腕の中に抱え込み、頬擦りしながら言った。
今回は、前の時のような躊躇はなかった。既に飼う事は決定しているらしかった。

「ちょっと待ってよ神楽ちゃん。ちょっとよく考えようよ」

新八は、女子テンションで毛を可愛がる神楽を制止した。
銀時っぽい毛が二つに増えたのだ。
大問題だ。

「なにアルか。なんか文句あるアルか」

「大アリだよ。だって…」

口を尖らせる神楽。
新しい毛は、その鼻の頭を舐めている。
カワイイ…。
どうしようカワイイ。

行方不明の銀時。それとおぼしき毛が二つに増え、ますます行方不明の銀時。

は、置いといて、とりあえずこの毛はカワイイ。
そして、前に発見したあの毛もやはりカワイイ。
つまり、目下の問題は

「この子を飼っちゃったら、あの子はどうなるの」

という事だ。




「新八。ウブいお前は知らないアルな」

暴れる毛を抱きしめる神楽は目を伏せてアンニュイな表情になり言った。

「何を。何を知らないって言うのさ」

新八は毛を取り返そうと手を伸ばしたが、その手を神楽は払いのけ、更に近寄る新八のみぞおちに踵で蹴りを入れた。

「ウグッ…!」

「お前は愛するものが複数ある時、ひとつの愛が愛するものの数だけ分配されると思ってねぇカ?…違う。愛は、分配されるんじゃねぇ。愛は、…愛するものの数だけ増えるアルんだぜ…」

「グッ………グ、…グラさんんん!」

腹を蹴られて上体を二つに折りながら新八は叫んだ。
その足元に、以前に発見した毛がいつのまにか近寄ってきていた。



「……………」


つぶらな瞳。
カワイイ。モファモファカワイイ。

新八は、以前に発見した毛を抱き上げた。
モファモファを胸に抱いて、新八は言った。

「僕わかったよグラさん。どちらもカワイイなら、どちらも全力で可愛がればいいんだね」

「フッ…、ちょっとはわかってきたみてぇじゃねぇカ…」

「グッ、グラさんんん!!!」

二人は、それぞれの腕にカワイイを抱きしめながら、愛についての理解を深めた。その足の下では銀時の布団が踏みしだかれていたが、愛の真実にたどり着いた二人には、そんなもん別にどうでもよかった。
銀時。
確かにそういうのがいたこともある。
だがそれがなんだっていうんだ。

「新八。これを見るアル。この二つのカワイイものを。…これをどう思う?」







「カワイイよ、グラさん」

「そう。カワイイ。だから…」

No Reason





…そして新八と神楽は


これと


これ

とのNo Reasonな日々を送った。

幸せだった。
ひたすらカワイイものをひたすら愛する日々。
これが永遠に続けばいい、そう思っていた。
もういいやと思って、二つの毛の名前は『銀さん』と『銀ちゃん』にした。
思い返してみれば、銀時の存在感がこれら二つの毛に勝っていたかというと、別に勝ってなかったし、銀時なんかだいたいこんなもんだったし、だからこの二つの毛を『銀さん』『銀ちゃん』と呼んでなんか差し支えがあるかというと、ないと思えた。
だからこれでいいと思っていた。




そんなある日。

銀時の布団が、また微妙に膨らんでいた。

新八は、ごくりと喉を鳴らした。
膨らみは、これまでと違い、人体が収納されていると考えるのが妥当な大きさだった。

「…………」

めくるべきか。

新八は悩んだ。
次は何が出るのか。

…奴が、戻ってくるのか。
戻ってきてしまうのか。

しかし悩んでいても仕方がない。
新八は意を決し、かけ布団をバサーとめくりあげた。

そこには

このようなものがいた。













そしてそれは、立ち竦む新八に、えもいわれぬアニメ声で

「No Reason…///」

と囁いたのだった。



おわり

(2012/10/28 19:23)



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