★小話『アドバルーン』

しんすけ様がいなくなったッス。
いつもの事だから、万斉も武市先輩も気にしてなかったッス。
でも自分は気になったッス。
しんすけ様はデッドオアアライブのお尋ね者ッス。つまらない下手踏むようなしんすけ様じゃないッスけど、万が一ってことがあるッス。アライブならいいッスが、デッドにされてしまったら困るッス。もしもしんすけ様がデッドにされてしまったら、また子は、この滾る女の性を誰にぶつければいいッスか。
だから自分はしんすけ様を探しに出たッス。
しんすけ様、どこに行ってしまったッスか。

しんすけ様が行きそうな場所を考えたッス。
でも自分なんかには、しんすけ様の考える事は想像もつかないッス。
だから、しんすけ様がいたら似合うと思えるとこを探したッス。
歓楽街の路地裏、地下鉄のホームの一番はしっこ、波止場の倉庫、山奥の採石場、廃工場、色々探したッスが、しんすけ様はいなかったッス。
しんすけ様、どこに行ってしまったッスか。

そろそろ昼ッス。
お昼ご飯を食べないといけない時間ッス。
自分はオムライスが食べたかったッスが、しんすけ様はそういう炭水化物は採らないッス。そのはずッス。野菜スティックと少しの肉、そして強いスピリッツなどをたしなむだけッス。そのはずッス。
しんすけ様に、また子が切った野菜スティックを食べてもらいたいッス。
だから早くしんすけ様を見つけなければならないッス。

なかなか見付からないので途方に暮れそうだったッス。
そんな自分の目にふと止まったのが、アドバルーンだったッス。
ビルとビルの間をぬって、丸いそれが上がっていたッス。
アドバルーンってなんかちょっとワクワクするッス。その下に何があるのかなって思うッス。ついついそこに行ってみたくなるッス。
しんすけ様を探さなきゃ、と思ったッスが、自分はちょっと疲れていたッス。
足が自然にそっちの方に向いていたッス。



「高杉、言っただろう。次に会った時は貴様を斬ると」

「ククッ…、ヅラァ。テメエ、将軍と馴れ合ったんだってな…?牙を捨てた獣は、どうやら飼い慣らされるしか道がないようだ」

「ほざけ」

アドバルーンは、住宅展示場に上がっていたッス。
展示場では大商談会みたいのがやってたッス。
何棟か並ぶオシャレなおうちに囲まれた空き地がちょっとした広場になっていて、おうちを求める家族連れとかハッピを着た不動産会社の社員とかが沢山いたッス。
そいつらが行き交う広場のど真ん中で、しんすけ様と桂が刀を抜いて対峙していたッス。
そこに坂田銀時も現れたッス。

「よォ、銀時。テメエはどうだ?テメエの中の獣も、眠っている間に首輪をかけられたんじゃねぇか?」

「…俺の獣は首輪抜けが得意なんだよ」

「相変わらず達者なのは口ばっかりのようだな」

住宅展示場のど真ん中で対峙する、しんすけ様と桂と坂田銀時。
一触即発ッス。
この因縁の三人が集まる所では必ず大きな風が吹くッス。
がんばれ、しんすけ様。

応援する自分の前で、三人の獣が剣を振り上げたその時。

「アッハッハ!おまんらやっぱり来たかー!絶対来ると思うちょったぞ!風があるきアドバルーンはやめえと陸奥が言うたが無理して上げてよかった!おまんらはアホじゃき、こうゆうのが絶対好きじゃ思うたんじゃ!案の定じゃあ!」

頭がモジャモジャのでかい男がでかい声を張上げたッス。

「テメー!しんすけ様がアドバルーンなんかにつられて来たって言うッスか!」

「おおお、なんじゃあ!可愛いお姉ちゃんじゃあ!おまん、5万やるきわしにパンツをくれんか!」

「しんすけ様あ!嘘ッスよね!アドバルーンなんかにつられてないッスよね!」

自分は泣いたッス。泣き叫んだッス。
泣き叫ぶ自分の肩を誰かが叩いたので振り返ると、チャイナ娘がいたッス。
チャイナは酢昆布をクチャクチャしながら言ったッス。

「また子。目を覚ますアル。あいつらはアホアル。お前が愛しているのは自分の中の幻影アル。その幻影を打ち払わなければ、お前は真の愛には辿り着けないアル」

「違うもん!しんすけ様はアホじゃないもん!桂と坂田銀時はアホでも、しんすけ様は違うもん!アドバルーンなんかにつられてないもん」

「また子ぉ。仕方ない女アルな、お前は」

住宅展示場の広場のど真ん中ではしんすけ様と桂と坂田銀時がマジバトルを続けていたッス。
自分は泣き叫び続けて、チャイナ娘は哀れなものを見る目で自分を見て、モジャモジャのでかい男はパンツパンツ言ってたッス。



その日の夜、自分は しんすけ様に訊いたッス。

「しんすけ様。アドバルーンをどう思うッスか」

しんすけ様はキセルの煙を細く吐きながら言ったッス。

「…フッ…悪かねぇ」

そう言うしんすけ様は痺れるくらいかっこよくて、また子の女の性が滾ったッス。
なんか、チャイナ娘の言ってた言葉の意味が悔しいけど少しわかったような気がしたッス。

また子は、ちょっと大人になったッス。




おわり

(2012/09/17 21:35)



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