★小話『かわいい毛』

11時半になっても銀時が起きて来なかったので、新八は和室に行って布団をめくりあげた。

起きろコラァ、と言いかけた新八は、バサーとめくりあげた布団の下にあるものを見て、わっと悲鳴をあげた。

布団の下には





このようなものがいた。








なんだこれは。
新八はびびった。
こんなものは見たことがない。


「………………」


それは全く動かず、音も立てず、布団をめくった時の形のまま敷布団の上に載っている。

生物なのか。
それもよくわからない。
ぱっと見、ただの毛にしか見えない。
しかしよく見ると、その中央に Y みたいな形態が認められる。
そこだけ見ると、なんかの動物のようではある。動かないし、鳴かないが。

「何アルか」

神楽がやって来た。
神楽はどーぶつが好きだ。
もしかしたら、神楽ならわかるかもしれない。
新八は神楽に訊いた。

「これ、何?知ってる?」

「…何アルか、これ。毛アルか」

神楽にもわからないらしい。
どうしよう。

「えいっ」

神楽はおもむろに、近くにあったモップの柄をかけ声とともに毛のかたまりに勢いよく刺した。
モップの柄は、毛の中に驚くほどズブズブ入っていった。

「奥の方に、身が入ってるアル。柔らかいアル。多分、生き物アル」

神楽は興味深そうに言った。


「………………」


毛は、そんなもんを突き刺されてるというのに全く無反応だった。

生き物だとして、しかし。
一体なんなんだこれは。

「毛を刈ってみるアル」

神楽は言った。
なるほど。
マリモみたいなもんなら毛を刈ったらなくなるが、これにはどうやら身がある。
身があるのであれば身を確認してみるのが、正しい対処の仕方だと思われた。











「カワイイ…」

神楽が思わずといったように呟いた。
新八も声には出さないまでも同じことを思った。
カワイイ。
なんか、ストレートにカッワイイって感じじゃないが、このモコモコさ加減とか、モファモファさ加減とかが、すごくじわっとくる。
これはやばい。

「…うさぎ?うさぎなのかな?」

「…そうアル。なんかそれっぽいアル」


「………………」


うさぎみたいなものは、相変わらず動かないし鳴かなかった。
しかし、なんか、それすらもカワイかった。
カワイイ。
やばい。

「…エサやってみるネ」

神楽は定春のエサ皿を持ってきた。
うさぎ(草食)かもしんないものに定春(肉食)のエサはどうかと思われたが、しかし、




「………………」


うさぎかもしんないものはエサをボリボリ食った。

「カワイイ…」

「カワイイね…」

なんというカワイイ毛だろうか。
こんなにカワイイ毛は他にない。
新八と神楽は並んでしゃがみ、うさぎかもしんないものがエサをボリボリ食うのを、しばらく無言で見詰めた。

「決めたアル。私、これを飼うヨ」

神楽が言った。
新八も異論などなかった。
この毛をうちの子にするのだ。そして心を込めて可愛がり、好きなときに見詰めたり撫でたり、赤ちゃん言葉で話しかけたりするのだ。

「………………」

それはひたすらエサをボリボリ食っていた。
定春のエサを平気で食っている。そして大人しい。とても飼いやすそうではないか。
結局なんなのか正体不明だが、カワイイから別にいいと思えた。

「飼うなら名前を付けないといけないネ」

「そうだね」

「毛」

「…そんな名前気持ち悪いよ」

「定春´」

「犬の方と紛らわしいよ」

新八と神楽は、新しい万事屋の住人の名前をワクワクしながら考えた。


「………………」

その、なんなのかわからない、うさぎかもしんないものはひたすらボリボリとエサを食っていた。



名前はなかなか決まらなかった。議論は紛糾した。
しかし、そのような議論もまた、ワクワクしている新八と神楽にとっては楽しいものだった。


そしてそんな二人は、自分たちが銀時の事を完全に忘れている事を、忘れているのだった。






おわり









おまけ



そのころ、きへいたいでは…





「しんすけ様…。どこに行ってしまったッスか…」






おわり





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