★小話『寝れない夜の電波小話』
へんな時間に目覚めて眠れなくなったので、町をさ迷いました。
町は寝静まっていました。
誰もいませんでした。
もしこのまま夜が明けなかったら、町は誰もいないままに、時間だけが過ぎ、やがてはゴーストタウンと化すのだろうか。
ゴーストタウンと化した町を眠れぬ自分はさ迷い続けるのだろうか。
でも、さ迷い続けるとかいう状態は、もう殆どゴーストじゃないだろうか。
町も自分もゴーストになるのだろうか。全てがゴーストになるのだろうか。
自分が眠れないばかりに?そんなことになるのだろうか?
こわい。
こわいこわいとさ迷っていたら、足下でねこがニャンと鳴いたので立ち止まった。
見たら、ねこの銀さんがいた。
ねこの銀さんは言った。
「おい。俺はな『お返事ねこ』なんだぜ」
お返事ねこ。
「名前を呼ぶとお返事をするねこだ。どうだ」
ねこの銀さんは自慢するのだった。
「何を言ってんですかお前は。そんな姿になっちまいやがって。神楽ちゃんが泣くとは思わないんですか」
「………神楽の話はするな」
「………すいません」
「かわりに俺が、ねこエイズの話をしてやろう」
「気持ち悪いからいいです」
「さっき、でかい虫を捕った。見せてやるから誉めてくれ」
「気持ち悪いからいいです。僕、そろそろ行かなきゃいけないんで行きますね。さよなら」
「行く?どこ行くの?」
ねこの銀さんは、口にくわえた、えもいわれぬでかい虫を落とした。
「そうですね。明日を、探しに…ですかね」
「そうか。俺には止める権利はない。だって、俺は…ねこだからな」
ねこの銀さんは、悲しそうな、しかし全てを諦めたような口調で言った。
なんて悲しそうな声を出すのだ、このねこは。
「いいよ、行けよ。ただのねこである俺のことなんか気にせずに」
ねこ!
お前というやつは!
感情が高ぶった僕は、思わずねこの名を叫びました。
「銀さん!」
ねこは、
ニャン
とお返事をした。
そして、ぴょんって壁に登って、振り返りもせずにあっちに行ってしまい、
僕は、誰もいない町に一人取り残されました。
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