★小話『定銀』

『有名な米国の獣医師の著書によると、クッションや人間に対するマウンティングは自慰行為で、去勢、避妊手術の有無にかかわらず、オスメス双方に見られる、ということです。』

去勢をしても駄目か…。
銀時は遠い目になった。



定春はそれを銀時にしかしなかった。新八や神楽にはしなかった。身長が丁度いいからなのか、定春はそれを銀時にしかしなかった。銀時と、神楽がゲーセンでとってきたリラックマのでかいぬいぐるみにしかしなかった。

今朝、洗面所で顔を洗っていたら、いつのまにか近寄ってきていた定春が、屈んでいる銀時の背中におもむろにのしかかり、腰を激しく前後させながら擦り付けてきた。
後頭部に獣臭い息をハァハァ吐きかけられ、背中の下・尻の上あたりに腰を擦り付けられる銀時は、洗面台に両手をついて非常識な重さに耐えながら遠い目になった。

定春は犬だから本能が導くままだった。男として気持ちはわかるし、動物の生理現象を叱るのも可哀想な気がして、銀時は定春のそれを『イケナイ!』とか躾る気になれなかった。
多分それが悪い。
新八も神楽も定春がなんか悪い事したらきちんと『イケナイ!』と言う。銀時はあまり言わない。だから定春はこれを銀時ですることに決めたのだ。

定春はでかい。
そんなでかい犬が本能に突き動かされ一心に腰を擦り付けてくるのだからたまったものではなかった。銀時は洗面台に両手を突っ張っていたが耐えきれず、定春がぶつかってくるごとに頭が正面の鏡にぶつかってゴンゴンいった。後頭部にはハァハァハァハァ獣臭い息がかかる。
犬がそれをするのは犬を飼う家では結構日常的な風景ではあったが、定春はとにかくでかかったので、さすがに銀時もそろそろ限界だった。

…よし言おう。
言うんだ俺。
イケナイ。定春イケナイ。

しかし普段言い慣れていない言葉は言いにくい。
そういえば、躾る時は短く強い言葉なら何でもいいってポチタマで言ってた。『ダメ』とかでもいいって。

決心した銀時は声を張り上げた。

「ダメ!定春、…ダメ!…さっ、定、春!ダメ!…ダ、メ!!」

巨大な犬にのしかかられた銀時の声は潰れ、犬の動きに合わせて、変に途切れた。

「さだっ…定春!だ…だめっ!ダメ、ダ…メェッ!!」

声を上げながら銀時は
『俺、何やってんだろ』
と遠い目をしながら思った。

そして定春は、銀時の言うことなんか、やっぱりというか全然聞かないのだった。



おわり

(2012-06-28 01:21)







memo log

top



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -