★小話『3Z土方くん』

土方は銀八が好きだった。何だったら抱かれたい、くらいに好きだった。
銀八の銀縁ダサ眼鏡の下から覗く眼光の鋭いタレ目に射抜かれると、腰のあたりが麻痺したような感じがして立っていられなくなった。
何だったら抱かれたいというか、抱かれたかった。あの男らしい骨太がっしり体型のくせに蒼井優のようにキレイな肌をした先生に組み敷かれて犬のように喚いてみたかった。あの無気力な目をした先生にぶっ壊されてみたかった。だから土方は、床にしゃがんでいる銀八の前に立ちはだかって、言った。

「先生。俺、先生が好きです。抱いて下さい」
銀八は、開けにくい袋を無理矢理開けようとして爆発し四散したイチゴミルクの飴を一生懸命拾い集めていたが、土方の発言に顔を上げた。
「俺に抱かれたいのか」
銀八の男前な顔に土方の胸がキュッとなる。なんてカッコイイんだ。
「はい。抱かれたいです」
熱に浮かされたように土方が応えると、銀八は立ち上がり、犯罪者の表情で笑った。なんて悪い笑い方なんだ。だめだ、カッコイイ。
「そうか…。わかった。後悔しねぇな?」
「しません。先生、好きなんです」
銀八は拾った飴を白衣のポッケに詰めた。そしてポッケから抜いた手を土方に伸ばし、土方のほっぺを冷たい指で するっ と撫でた。
土方は変な声が出そうになったのをこらえた。その様子を眼鏡の下の鋭い目で眺める銀八は冷酷そうな微笑みを浮かべて言った。
「今日。放課後、家に来い」
「せ、せんせ」
銀八は背中を屈めて土方の左耳に口を近付けた。
「滅茶苦茶にしてやる」
と言いながら土方の左耳を舐めた。

銀八のエロスすぎるフェロモンの魔力に操られ、土方は銀八の賃貸マンションのドアの前に立った。震える指でインタホンを押す。
ああ先生。

「はい、どちら様」
ガッチャ、と開いたドアから顔を出したのは銀八ではなかった。
同じクラスの志村(弟)だった。
土方は混乱した。
なぜ志村(弟)が先生のマンションに。なぜ志村(弟)が自分ちのように先生のマンションの玄関で来客の応対を。
まさか志村(弟)も自分と同じなのか。自分と同じように先生をカッコイイと思って、何だったら抱かれたいとか思っているのか。なんてこった。地味でイケてない眼鏡のくせに何を思い上がっているのだ。

湧き上がる怒りに形相を変える土方をよそに、志村(弟)は素だった。普通にドアを開け、土方を室内に迎え入れ靴を脱がせスリッパを出した。
「おっ、お前なんかには負けねぇ!先生は俺のもんだ」
土方は思わず叫んだ。
しかし志村(弟)は激する土方を前にしてもなお素だった。
「ああ、はい」
とか言った。素にも程があった。
土方はもしかしたら自分は浅ましい誤解をしたのかと己を恥じたが、やはり疑念は拭えず、美形の部類にある顔を険しく歪めていた。
「土方さん」
志村(弟)が素のまま言った。
「なんだ!」
「知りませんよ僕は…。別にいいんですけどね…。でも、知りませんよ…」
謎の呟きを残し志村(弟)は土方に背を向けた。
「どういう意味だ」
「知りませんからね…」
志村(弟)は不気味な謎の呟きを繰り返すだけだった。

リビングに足を踏み入れた土方はびびった。
リビングが人だらけだったからだ。
すごい人口密度だった。8畳くらいのリビングが年末のサティみたいになっていた。
なんだこれは。
呆然とする土方。人の数は勿論だが、そこにいる人が知った顔ばかりなのにも驚いていた。
まず、部屋の隅で不良の高杉が膝の上にそろばんを載せて弾いている。その横で夜兎高の神威がおにぎりを食べていた。おにぎりを握っているのは長谷川だった。長谷川と共に近藤もおにぎりを握っていた。ソファでは沖田が3DSでマリオをしていた。桂がそれを覗き込んで
「Bダッシュ!Bダッシュ!」
とか言っていた。リビングの真ん中のテーブルでは坂本先生がノーパソを開き株価のなんかみたいなグラフを見ていた。その向かいで服部先生がジャンプを読んでいた。テレビの前では猿飛と月詠先生が『嵐にしやがれ』の再放送を見ながらなんか言っていた。

呆然と立ち尽くす土方の肩に手が置かれた。その軽いんだか重いんだかわからない置き方。
ああ。あああああ先生。

土方は振り返るなり、背後の銀八に抱き付いた。
「先生、滅茶苦茶にされにきました。滅茶苦茶にして下さい」
「うん」
銀八はそう回答した。しかしその声は学校で土方の腰を砕けさせた、どエロスな声ではなかった。
なんか、乾いていた。
「ハイみんな、ちゅうもーく」
乾いた声を銀八が張り上げた。
「今日からみんなのお友達になる土方くんです。仲良くするように」

紹介されなくても知った顔ばかりだ。
土方はわからなかった。銀八の考えている事が。この状況が。一体、これは何なのだ。薄々わかってはいるが、一体何なのだ。
「先生もしかして、こいつらはみんな先生に抱かれたい系なんですか。自分で言うのも何ですが、俺がこん中で一番かわいいです。顔なら誰にも負けません。だから先生、俺を滅茶苦茶にして下さい」
「うん、そうね。まあ、抱かれたいというか抱きたいというか、色々だわね」
「そっちですか。そっち系もいるんですか。わかりました、俺も男です。頑張ります」
「ああ、うん。なんでもいいからね」

その時、志村(弟)が土方の前に進み出て、なんかノートを渡してきた。
「土方さん。先生は公共の施設なんです。みんなで仲良く大切に使うんです」
ノートには、氏名・貸出日・返却日という欄があった。
「基本、翌日返却でお願いします」
土方はノートに名前を書こうとしたが、今日の日付で坂本先生が既に記入していた。
坂本先生の後には4名ほどの氏名が記入されていて、つまり先生はむこう4日予約済みだった。
土方は5日後の欄に記入した。
「あと、先生はゲットするまでに萌える体質で、ゲットした後はどうでもよくなります」

銀八に抱き付く土方を坂本先生が剥がした。
「アッハッハ。そういう事じゃき」
そうなのか。
じゃあ、あんまり俺の顔とか関係ないな、と土方は思った。
坂本先生にまとわりつかれている銀八に土方は聞いた。
「先生。ちなみに誰が先生を抱きたい系で誰が先生に抱かれたい系ですか」

抱きたい系:坂本先生・神威
抱かれたい系:近藤・土方(新規)
どうでもいい系:高杉・桂・志村(弟)・沖田・服部先生・長谷川

どうでもいい系がやたら多いのが、なんか気になった。

「女子はどうなんですか」
「先生、女子は興味ないの。すぐお嫁さんにしてとか言うから怖いよね、女子って」

土方は
「ちょっと!狭いんだからもっと詰めてよ!」
とか銀八に『興味ない』と言われてしまっている女子達に叱られながら、窓際に体育座りで座った。
なんか顔ぶれもあれだし、学校にいるのと全然変わらなかった。
でも別に嫌じゃなかった。だから帰ろうとは思わなかったし、なんか知らんけど、先生を利用するシステムがわかって良かったと思った。
土方は土方が考えていたようには滅茶苦茶にしてもらえなかったが、ある意味では滅茶苦茶にされたので、先生は嘘を言ったわけではなかった。

ぼーっとしながら
『でも近藤さんが抱かれたい系なのは嫌だな』
とか思った。




おわり

(2012-06-24 01:02)







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