おうじさま

銀さんはフェラがすげえ上手い。

天パのつむじを見つめながら、俺は思うのだった。
銀さんは常日頃からどこにも力の入ってない男だが、こういう時にもそういう感じは全然変わらず、フェラする銀さんはフェラしているにもかかわらずまるで自然体なのだった。
どっこにも全く力が入ってないのだった。
部屋でうつ伏せになってマンガ読んでるのとほとんど同じ様子なのだった。

フェラする銀さんには緊張とか照れとか気負いとか、そういうのがなんもない。
そういう普通はありそうなもんが、なんもないのだった。
感情の力がそもそも抜けっぱなしだから体の力も抜けっぱなしというわけなのだった。



「そういやさー、」

「神楽の奴、あいつ生理まだねーんだよ」

「生理ねーくせに」

「生理用品い」

「っぱい買い込んでんのあいつ。発見しちゃったんだよね、この前」

「そん時、なんかこう…胸が甘酸っぱい感」

「じでキュンてなってさー」

「俺、あいつが、ンっ、嫁行ったら」

「泣くかもって思ったねー」



などという話を織り交ぜながら、一定して積極性の感じられない様子で、銀さんは俺のマイルドをフェラするのであった。

銀さんは俺よりは若い。
かといってすごく若いわけではないので、いっそ悲しいくらい男っつうか軽度なおっさんの形をしているし、色調は珍しいにしろ何かを勘違いさせてくれるような素敵な感じはどこにも全くないのだった。だいたい、常にやる気がなさそうだった。
しかし、口の中がありえない広いとか、ベロの力がありえない強いとか、そういう即物的かつ現世利益的なミもフタもなさでもって、俺の知らなかった世界を、銀さんは全然やる気のないまま俺の前に放り投げるように繰り広げてみせたのだった。



ところで、そうこうするうちに、俺はやばくなってきている。

ああ銀さん、ヤバい。もうヤバい。ヤバいって。あ。わ。あ。



俺は大人の男だ。だから、いくらなんでもそれは失礼なんじゃない?というボーダーはきちんと設けている。たとえそれが低めだとしても。

ボーダー上でふらつく俺。
その背中を容赦なくどつくように、銀さんが、AVの人のようなやり方で俺のマイルドを吸い上げた。



あ。



俺の低めのボーダーはあっさりと倒壊した。
いくらなんでもそれは失礼なんじゃない?と思っていた事を、俺は銀さんの顔面に行っていた。

おそるおそる覗き込むと、銀さんの顔面はAVの人のようになっていて、何かを勘違いさせてくれるような素敵な感じでは全然ない銀さんの顔面が、ああ、AVの人のようになって、銀さんが、ああ、銀さん、銀さん。



その時。

俺の手首を銀さんの手が掴んだ。それは恐ろしいスピードだった。今までの力の入ってなさが信じられない。
凄まじい変貌だった。そういやこの人『鬼』とか言われてたんだったな、とか俺は思い出した。

折れるかと思うほどの握力が俺のたおやかな手首を締め上げる。
めき、という音がした。
折れるかと思う、じゃない。折れる。



怯えて悲鳴を上げる俺の前で、銀さんは、殊更ゆっくりと顔を上げた。
なんかでベタベタの口が片側だけで笑っていた。

「オイ長谷川さん…」

濡れた目がギラギラになっていて、ほんとに鬼のようだった。



「『いかせてくださいおねがいします』を忘れたな?」



銀さん。
思い出した。そうだったね。
銀さんはそうだった。俺はそうだった。



「ケツ出せ」

銀さんが立ち上がり、木刀を手に取った。
俺はずり下ろしていたズボンを更に足首まで下ろし、恐怖と喜びに打ち震えながら銀さんの前で四つん這いになった。

「いくつ欲しい?」

「じゅ、10!10お願いします!!」

「このド淫乱が」

精液まみれの顔で嘲笑いながら、銀さんが木刀を振り上げた。

「いーち」

「ひぃっ、い…ぃちぃっ!」



木刀がヒットしたその瞬間、



俺は、もう一生銀さんについていこうと決めたのだった。



…ああ、ハツ。

もしかしたら銀さんは、俺の王子様なのかもしれないよ。









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