ブランコ
深夜の公園には誰もいなかった。
俺はブランコに乗っていた。
ブランコに乗って俺は考えていた。
いままでのこととか、これからのこととか、妻のこととか。
昨日のこととか、明日のこととか、妻のこととか。
…俺の人生に下げ止まりってあるのかなー。
「下げ止まった時は、死ぬ時だぜ」
そうなのか。
すなわち、下がっていることそれそのものが俺の人生なのか。
下がっていることが、生きてるってことなのか。
なんつー絶望的なことを、しかも断定的に言うのこの人。
前々から思ってたんだけど、この人一体俺の何なの。
夜陰に乗じて背後から忍び寄って、俺に断りもなくいきなり俺のブランコに立ち乗りしてきてさー。
そんで俺に断りもなくいきなりそんな酷いこと言うのよね。
「忘れろよ長谷川さん、遠心力が全て忘れさせてくれる」
軋むブランコ。
設計上、大人の二人乗りは想定されていないはずのブランコ。
超軋む。
遠心力っていうか大丈夫なのこれ設計上、構造上。
ちょっとヤダコレ。あっ。ダメ。壊れちゃう。あっ。あっ。
「壊れねーよ、こんくらいで」
銀さん。
ものすごい笑ってるんですけど銀さん。
どうしたのあんた。酔ってんの?
「壊れないっつうか。激しい、激しいよあんた。マジでヤバいって、この振れ!もう140度位いってない?ていうか怖い、怖いよう!!」
「怖いよなぁ長谷川さん。実は俺も怖いんだよねぇ」
銀さん。
あんた、ものすごい笑って。
…一体何故だ。何故俺はこんな目に合う。
誰か助けて。ハツ助けて。
「もうやめてよ、振り落とされるよー!」
「ハハハハハ!なあ長谷川さーん、俺をどっか山ん中とかに連れてってくれよー!そんでケモノのように激しく俺を犯してくんなーい?」
聞いたこともないような突き抜けた笑い声。
声でかすぎる。深夜なのに。今、深夜なのに。
助けて。ハツ助けて。
ところで、ブランコ乗ってて後ろに振れる瞬間、なんか下腹がキュッてなるんだよ。
それってなんか、勃っちゃう感じに似てるんだよ。
だから俺は、ヤダヤダ言いながら、内心ではいいかもって思っていた。
ぶっこわされそうなこの遠心力に全て忘れさせてもらうのもいいかも。
みたいな。
ハツ。助けて。
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