バター犬

「どうでもいい」



と言ったら張り倒された。

頭がどっかの角に当たって、目がなんか霞むような感じになった。
そのままぼんやりしてたら、口の中に血の味が沁みてきて、あ、血出た、とか思った。

ていうか、血出るほど張り倒された、と思った。

思ったが、どうでもいい。
僕がどうでもいいんだから、あんたも僕の事どうとでもすればいいんじゃないすか。



「面白ぇな、お前。たまにだけど面白ぇ事言うよな、お前」



マジ萎える。
こいつの存在そのものが、僕の中のあらゆるものをどうしようもなく萎えさせる。
あんたは僕の、なんつうか、がっかりイリュージョンか。



「なんか面白いですか。なにがどう面白いですか」

「お前みたいなもんの口から、そんな面白い台詞が出るのが面白い」

「あんたは知らないのかもしんないけど、僕一応人間なんですよね。だから、いろいろ言ったりすんですよね。面白いすかコレ?」

「面白い。俺はお前のこと口きくバター犬くらいに思ってるけど、バター犬がそういうこと言うのが面白い」

へえ。バター犬。

「僕は一応、自分のこと人間だと思ってんですけど」

「人間だから、バター犬の分際で口きくんだろ」

すごいこと言いやがるよ。この、がっかりイリュージョンが。

「賢いバター犬に褒美を取らせようとか思わないんですか」

「飼い慣らすには叱咤と鞭が俺流なんだよ」



別に。
がっかりイリュージョンが何言おうと別に。
バター犬がどう思おうと別に。

あんたなんか別に。
僕なんか別に。



「卑下するなよバター犬」

がっかりイリュージョンが、転がっていた眼鏡を拾い、優しくバター犬にかけさせる。
そして

「卑屈なバター犬にしゃぶらせても感じねぇよ」

と言った。



僕は、僕に眼鏡をかけさせようとする銀さんの中指を掴み、静かに逆方向に曲げた。









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