万事屋・坂田銀時は人格破綻者であるべきだ。

土方はそう思っている。しかし土方の希望に反して、事実はそうでない。
万事屋はごくごく真っ当な情緒と理性を備えた普通の人間で、その性質を評価する人々からささやかな人望を集めて日常を平穏に過ごしている。
万事屋は見かけよりはずっと穏やかな人間だった。穏やかであろうとしていた。
もし、計算ずくの他意があって人にそう見せようとしているのであれば、あれほど頻繁に泥を被ったりしないだろう。あれは全く取り繕ってなどおらず、根っからああなのだ。
あれが人から愛されているとしたら、そういう意外な素朴さを愛されているのだろう。

しかし、と土方は思う。しかし、それでも万事屋は人格破綻者であるべきなのだ。
そうでなくてはならない。



日没を過ぎると、街は俄かに活気付く。
土方は田舎育ちだった。夜になると活気付く街に実は未だに慣れない。慣れないが嫌悪はしない。

土方にとって環境などは取るに足らない要素だった。
彼の意識は常に内を向いている。価値を求めるのも『内側』に対してであるから、例えば、しばしば田舎の野良犬上がりと陰口を叩かれる事も何とも思っていない。田舎の野良犬だろうと、その牙を正当に評価されるのであれば土方はそれでいい。他はどうでもいい。血統書付きだろうと野良だろうと、牙は牙だ。付随するその他のなにかなど、くだらないものに決まっている。内側に仕舞われた本質の外側など、取るに足らないものだ。

土方にとってどうでもいいものである夜の街は、煮えた鍋の中身のようだった。有象無象が常に無軌道に動き回り互いに掻き回し合っている。
慣れないが、嫌悪はしない。逆を言えば、嫌悪はしないがいつまでも慣れない。土方は、土方の進行方向を塞いで気付かない若いチンピラくずれの背中に

「邪魔だ」

と威圧的に吐き捨てるなり、その肩を物でも退かすように押し退けていた。男は気色ばんで振り返ったが、土方の制服を見るなり目に恐れの色を浮かべて、そそくさと歩道の端に寄って土方の道を作った。
土方が過ぎ去るのを見送る男が舌打ちをしたのを土方は聞いていたが、気にもしなかった。
こうして、日々土方が所属する組織の評判は形作られていく…のだという事もわかっている。だが評判を気にするのは、評判が実際に組織に噛み付いてからでいい。それか、末端の隊士がにこにこしながら交通整理でもすれば評判なんてものは適当に回復できるんだからそれでいいんだよ、と、土方は素知らぬ顔で猥雑な街を潜り抜けて行った。


 
横断歩道を渡る。
渡って、反対車線の歩道を来た方向へしばらく戻る。
何かの看板が、反対車線の歩道に並ぶ店の照明に照らされ、白く見えてくる。
看板は、神社の鳥居の脇に立てられていた。土方は夜目がきく。看板には、厄年が列挙されている。
この神社は、人の身に降りかかる厄を祓うという。
欠片も信じていない土方の目は看板の表面を滑った。滑った先は、たっぷりの闇を含んだ鬱蒼たる社の森だった。


 
厄を祓う神社の奥には、土方にとっての厄災そのものが待っている。




*






燃えるような夕日を見た。



自分がいつ始まったかを、直接知っている者はいない。皆、自分が始まった時の事を知る誰かから教えられて、自分の始まりを知る。
そのような誰かがいない人間は、自分の始まりを永遠に喪失している。

始まっていないという事は、『ない』という事に他ならない。
始まりを喪うという事は、同時に存在を否定されるという事だ。
だから、始まりを喪失した人間は自分自身で自分の始まりを作る。

具体的には、記憶だ。
その人間の一番最初の記憶が、その人間を始まらせる。

誰かに与えられた始まりが夢に見るようにおぼろげであるのとは違い、痛みを伴うほどに強烈な確かさでもって。



銀時を始まらせたのは、燃えるような夕日だ。
 



*






折角戻ったというのに、マフラーが見当たらない。 
どこかに仕舞われてしまったのかと思い、新八は押入れを開けたり箪笥を開けたりしたが、見当たらなかった。
動き回っていたら、炬燵で寝ていた神楽が目を覚ました。

「何してるネ」

帰ったのではなかったのか、と神楽はうるさそうに言った。新八は質問に答えず、箪笥の開きの奥を掻き分けながら

「僕のマフラー知らない?」

と聞いた。
神楽は、知るかそんなもん、と答えた。いつの間にか体にかかっていた肌布団を腕で抱き締め、寝返りを打ち、やかましく動く新八に背を向ける。

「銀ちゃんは?」

背を向けたまま神楽が新八に聞く。
新八は、知るかそんなもん、と答えて開きの扉を閉めた。マフラーは何処を探しても見当たらなかった。

「新八」

と、神楽が言った。
目当てのものが見当たらない新八は苛立っていた。

「何だよ」

尖った声を出して寝転がる神楽の方を見た。新八が見ている前で、神楽は腕に抱いた肌布団をずるずると引き揚げて頭の上まですっぽり被った。
布団をすっぽり被った神楽は言った。

「お前、銀ちゃんの事好き?」

布団の中からの篭った声が、唐突な質問を投げかける。新八はその唐突さに呆気に取られ、言葉に詰まって、炬燵に下半分を突っ込んだ布団の塊をただ見下ろした。
布団の塊は、中に入った神楽が少しも動かないために、神楽でなくただの布団の塊に見えた。

「私は好き」

神楽の声は平坦だった。自明の事実を述べるような、あまり感情を伴わない淡々とした声だった。

「私、まみーが死んじゃった時の夢を見たヨ。まみーはね、息の音だけさせてたヨ。私、それをずっと聞いてたネ。そうしたら、その内にまみーは息をしなくなった」

自分が記憶している情景が夢で完全に再現されていた、と神楽は変わらぬ平坦な声で続けた。

「さっき私が帰ってきた時ネ、銀ちゃんは寝てたヨ。近寄ってみたら息を吸ったり吐いたりしてたヨ。全然動かずに、息の音だけさせてたヨ」

だから、不安になった神楽は少しでも銀時を触っていたくて、その掌に頬を押し当てて眠ったのだ。
しかしいくら相手が新八とはいえ、あまりに甘えた恥ずかしい行動を暴露する気にはなれない。神楽は小さく息継ぎをし、一旦言おうとしたその事を割愛してから言葉を繋げた。

「…だから、まみーが死んじゃった時の夢を見た。銀ちゃんの息がまみーの息の仕方と同じだったから、そんな夢を見た。私、まみーが死んじゃったと思って目を覚ましたヨ。目が覚めて夢だったってわかって、よかったと思って横を見たら、銀ちゃんがいなくなってた」

動かない布団の塊を見下ろす新八も動けないでいた。

この布団の中身は神楽だ。しかし今はそれ以前に、怖い夢を見て怖い想像をして不安になっている女の子だ。身近な年上の男として相応しい言葉や行動で慰めたいと思ったが、何をどうすればいいのか全く思い付かなかった。

「新八。銀ちゃんどこ行ったアルか」

布団の中から聞こえる神楽の声が平坦なままで言った。

新八は、まるで責められているようだと、そんなはずもないのに思った。




*






銀時は体の横にぶら下がっている綱を取って軽く揺らした。
綱の根元に付いた大きな鈴が、上の方でがらんと鳴った。

「これで神様を呼び付けるらしい」

こんなもんで呼び付けられてのこのこやって来るっていうのは何なんだろうなと、面白くもなさそうな調子で呟いた。

「…まあ、俺が呼び付けたのは神様じゃなくててめえだけど」

「くたばれ」

土方は低く吐き棄てた。
死ねと言われた銀時は、怒りも笑いもしない。やはり面白くもなさそうに、いやだね、とだけ言ってそしておもむろに左腕を持ち上げた。

闇の中で、銀時の白い着物の袖が素早く翻るのを土方は見た。



吸い込んだ煙草の煙が左右の肺に充満する。煙の粒子は肺胞から溢れ出して血管に浸透し、循環する血液に運ばれて体の隅々へ行き渡った。二吸いもすれば、指先が冷え眩暈がし始める。舌の上に残る苦い味も相まって気分が悪くなる。

銀時は煙草を捨てた。
先端に赤い火を点けたまま煙草は転がり、すぐそばの側溝に落ちた。側溝の中で煙草はまだ燃え続けた。銀時の体内に取り込まれたものと同じ煙が、乾いた側溝の中から白く立ちのぼった。
銀時の前で膝をついて背中を屈め、深く俯いた姿勢を取っている土方の足元にも漂って来て、纏わり付いた。
煙草はそもそも土方のものだった。



銀時の掌は広い。
大きさで言うなら、例えば近藤や他の体格のいい隊士の掌はそれよりもずっと大きい。しかし銀時の掌は広い。大きいのではなく、広いのだ。
銀時の掌は、我が身に備わったものを機能的に活用させるための形をしている。生まれ持った形ではなく作り上げられた形だ。そういう掌は、大きさに関わらず広いと感じられる。

土方は、こういう掌を他にも知っている。多く知っている。今までに何度も目にしてきた。何よりも土方自身が、そういう掌の持ち主だった。

これは、人殺しの掌だ。

銀時の白い皮膚に覆われた掌はいくつも関節があるように土方の後頭部を覆い、離さない。人殺しの手に人体の中で最も重要な部位である頭を覆われている。
土方は思う。こいつに抱かれる女はこんな手に抱かれて恐怖を覚えないのか。

しかし、普通の女は銀時の掌がそんなものである事に気付きはしないだろうし、それに気付く女は同じく人殺しであるだろうから恐怖を覚えたところでそれは自業自得というものだ。
人殺しである土方は、そう思い当たった瞬間に軽い吐き気を覚えて、口腔に深く含んだものを引きずり出して噎せた。

「何噎せてんの。処女のふりか?」

嘲笑する銀時の衣服に覆われたままのみぞおちが、嘲笑に合わせて何度か窪んだ。鼻先にある勃起した性器が、冷え切った土方の頬を叩いた。

万事屋は、人格破綻者であるべきだ。

銀時は常に土方を虐待した。
土方の性質を見抜いて、それを喜ばすための才能を銀時は持っていた。大して口もきかないうちから銀時はそれを察知し、そして何食わぬ顔で、例のおもしろくもなさそうな様子で土方が喜ぶ事を実行した。

不遇な子供を二人も拾って匿い、身内の難儀であれば泥を被る事に躊躇がない、押し付けがましいほどには善人ではないが決して悪人でもない、それなりの幸福を知って日々を平穏に生きる、そんな人間がこのような事を平気で出来るのが土方には不可解だった。
寒さで指先がかじかむ屋外で、同じ男に無理矢理性器を咥えさせて当然のように勃起している。人格が歪んでいるとでも思わなければ説明がつかなかった。
説明がつかないものの存在は、土方を落ち着かなくさせる。

どこに片付けりゃいいか、わからねぇだろうが。
空中に浮遊する、このわけのわからないものを仕舞う引き出しは一体どこにあるのか。今までやってきたように、腰に帯びた刃物で両断できれば話は早い。
しかし銀時は、出会い頭に土方の剣を軽々と避け、おまけに叩き折った。

片付けられないものに対して土方は強く出られない。
有象無象の集まりである組織のいうなれば片付けを行うのが土方の職務であったが、職業を離れても土方はそうしたがる。頭の中がそうするようにできているからだ。
片付けは、いうなれば土方の性分だった。土方にこれをさせている近藤は、ぼんやりしているかに見えて意外と観察力に優れている。

「脱げよ土方くん」

 土方にとっての『わからぬもの』が頭の上から神であるかのように命じた。

「脱いで、しゃぶれ」

自分は着物を緩めたばかりで、上着を着込みマフラーまで巻いていながら、土方にだけこの寒空の下で脱げと銀時は言った。偏に自らの下劣な欲望のためにだ。
土方は唇を歪めた。
嫌悪したからではない。
この屈辱的な扱われ方に、土方は胃の底から沸々と湧き上る暗い愉悦を覚えていた。人殺しの手を持つこの男から手酷く扱われる事に、土方の内部の人殺しが喜ぶのだ。
土方の薄い唇は紛れもない快感で歪んだ。

歪んだ唇で土方は切れ切れに笑う。細切れの呼吸を漏らしながら土方は、後頭部を覆う銀時の広い掌に指を伸ばした。

人殺しの指が人殺しの指の上を這った。

土方の後頭部を強く押さえ込んでいた銀時の掌から一瞬力が抜けた。
土方は力が抜けた銀時の手を掴み、後頭部から離させた。そして顔の前に持ってきたそれを恭しく両手で捧げ持つ。冴えた月明かりに青白く照らされたそれは、罪科やその他の、あらゆる瑕疵に塗れていた。

銀時はぎょっとした。
土方が銀時の掌に唇を、まるで恋人の肌を愛しむようにやさしく押し当てたからだ。

「なに…」

と言いかけた銀時に土方は続きを言わせなかった。
前歯が銀時の掌に突き立った。掌を覆う薄い肉を削ぐかの態だった。
銀時は短い悲鳴を上げ振り払おうと腕を動かすが、土方が手首を強く掴むためにその動きはただもがくだけのものになる。

銀時の掌に食い込んだ土方の前歯が皮膚を突き破った。土方の口腔に、唾液に薄まった血の味が広がった。
土方は銀時の掌に角度を変えて何度も噛み付いた。銀時の血は噛み付く角度を変える度に新たに湧き出して、土方の口腔内で次第に濃度を強くしていった。

銀時は悲鳴を上げて汚い言葉を使い土方を罵った。
今度は土方が嘲笑う番だった。

「…てめえは俺に欲情するのかもしれねぇが、俺は、てめえみたいなもんを欲情させる自分に、欲情するんだよ」

人間の皮膚を咀嚼した土方の唇とその周囲は夜目にもわかるほど血に汚れていた。
嘲って引き攣る唇から覗く歯は血液か唾液かで濡れ、月明かりを反射し暗く光っている。



燃えるような夕日が脳裏を掠めた。


 
銀時の形相が変わった。

銀時は土方と会う時には木刀を持たない。理由など知ったこっちゃないが、今日も例に漏れずそうだった。神社の拝殿に佇む銀時の姿を見付けた時に確認している。
もし木刀とはいえ銀時が帯刀していれば、今、自分は刀を抜いていたと土方は思った。銀時が発した気配は、間違いなく殺気だった。



土方の腹を銀時の足が突くように蹴った。何の手加減もなかった。
銀時の手首を掴んでいた指が解け、土方は地面に横様に転がった。
強い衝撃を加えられた内臓が波打った。反射的に腕で腹を庇い硬い地面の上で脚を折り曲げ体を丸めた。二度えずいたが何も出ない。口の端から垂れた苦い唾液だけが地面に落ちた。

「萎えた」

蹲って咳を繰り返す土方の前で、銀時は聞かせるでもなくそう呟いた。必要な部分だけを間抜けに開いていた着衣を整える。

帰る気か。

土方は瞬時、激昂した。
土方の動きは早かった。いつ起き上がったのかも悟らせない猫の素早さで、一瞬で銀時に間合いを詰める。その勢いのまま銀時の胴に頭から突進し、仰向けに押し倒した。

銀時は声も上げず後ろ向きに倒れた。頭でも打ったのかその体は覆い被さる土方の下で脱力した。見ると、仰向いた顔に表情はなく、虚ろな目が中天にある白い月を映していた。

土方は銀時の腹の上に跨った。

「ぐっ」

と聞こえる音を銀時の喉が出す。
土方が銀時が首に巻くマフラーの両端を掴み、それを締め上げたのだ。

「…ふざけんなよてめえ」

怒り狂う土方は喉を絞った唸り声を上げた。
マフラーの両端を合わせて捩じった。捩じるごとに締まる。
銀時の抉れた掌が、首に巻き付くそれを引き剥がそうとしてその辺りを掻き毟った。構わず土方は捩じり上げる力を強めた。
しきりにマフラーの繊維を引っ掻いていた銀時の指の動きが鈍くなる。きつく眉を寄せ歯を食いしばる顔は明るい所で見ればきっと蒼白だ。

人間が、どこまでどうすれば死ぬかを土方は熟知していた。毛で編まれた伸縮性があるマフラーごときではいくら締めた所でそうそう死にはしない。
そして、ひとの生死の加減についてなら、銀時も土方と同程度に知っている。

土方の暴力をおそらく銀時は冷静に観察している。そしてそれは土方も同じだ。土方も銀時を観察している。
土方は銀時に馬乗りになり首を絞めながら声を立てて笑った。



土方の下で銀時の体が何度か不規則に跳ね上がった。
これ以上やれば、死にはしないが落ちる。

土方がそう思った時、銀時の掌が銀時の首を絞める土方の手首に触れ、包むように緩く掴んだ。

銀時の掌は傷付いている。土方の素肌が露出した手首は血で滑った。
土方はマフラーから手を離した。マフラーの端が喘鳴する銀時の上に落ちて苦痛に歪んだ顔を隠した。

銀時の喘鳴に次第に声が混じり始めた。声に合わせて肩が痙攣めいて震え、土方を乗せる腹も震えた。土方の手首を掴む掌も震え、そこから銀時の震えが土方に直接伝わった。
銀時は笑っていた。

銀時は震える体を捩じり地面に片肘を付く。
土方は察した。
抉れて血塗れの掌に掴まれた手首を上に持ち上げてやった。それに助けられ、銀時は上体を起こした。
起き上がったはずみで銀時の顔を覆っていたマフラーが胸に落ちる。
落ちた時には銀時はもう笑っていなかった。酸欠で充血した目を重たそうに半ば閉じた、例のおもしろくもなさそうな顔をしていた。



骨ばった手の甲が土方の頬を強かに張った。

衝撃で土方の首が仰け反った。仰け反ってがら空きになった土方の首下に両手がかかり、かっちりと閉じた制服の左右の身ごろを一気に割った。制服の前を閉じていたホックがいくつか千切れ飛んだ。

 銀時が身を乗り出し、土方の耳元に唇を寄せた。

「立て、淫乱」

銀時の声は内容に反して、柔らかく甘い。子供を寝かしつけるような声だった。耳朶に当たる息は変に熱く、湿っていた。

土方の体を、芯から腐食させていくような快感が走った。

自分の方に傾いでいる銀時の額に触れた。
指で、だらしなく伸びた前髪を撫で上げる。指の間から逆らうように逃げる癖っ毛の下に、まだ赤みの残る傷跡が透けて見えた。
先日、土方の爪が掠った痕だ。

銀時の頭に置いた手を支えに土方はのろのろと立ち上がる。
跨いでいた銀時の体を跨ぎ越す。見下ろした足元の側溝には、先ほど銀時が捨てた煙草が落ちている。まだ燻っていた。

見下ろす土方の首が後ろから勢いよく押された。
頬が、側溝の向こうにあるブロック塀に衝突し、更に押さえ付けられる。
銀時が後ろから無言で被さってきた。

「う、ぁッ…」

衣服を下ろしもせずベルトと腰の隙間に捻じ込むように進入してきた銀時の手が、いきなり指を挿入してきた。
後ろで、銀時が笑う気配があった。
歯を食いしばって漏れ出す声を噛む土方は、苦痛に耐えながら思った。



こんな事で欲情する俺の頭はおかしい。
しかし、頭がおかしい俺に欲情するこいつは、もっと頭がおかしい。

平穏な生活者であるくせに、こんな事で欲情してそれを曝け出し恥じもしない。
頭がおかしいと思わなければ説明がつかない。

説明がつかないものは、どう処理すればいいのかわからない。

銀時の存在は、土方にとって耐え難い。









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