drive me crazy 1

新八は、夏休みを利用して免許を取った。
ふぐ調理師でも宅地建物取引主任者でもなく、普通自動車第一種の免許を取った。いわゆる一つの、くるまの免許だ。

友達のたかちんと一緒に取った。夏休みに一緒に車校行こうね、と約束していたから一緒に行って取った。
それで、たかちんが『男はやっぱりマニュアルだよね。オートマなんかダサいよね。ね、新ちゃん』と言ったから『当たり前だ。男はマニュアルだよ、たかちん』と、答えてしまったので、別にオートマ免許でもいいと思ってたのにわざわざマニュアル免許を取った。半クラや坂道発進といった試練はあったが、新八はなんとかそれらをクリアし、めでたく『オートマ限定』と但し書きが記載されていないクールな免許を取得した。

新八はウキウキした。
今後はバス停でバスを待つなどの締まらない手順を践まなくとも、徒歩や自転車では行けない遠くに行けるのだ。しかも、バス停の位置やバスの時間など配慮せずとも好きな所へ好きな時に行けるのだ。
サイコーだ。

免許を取った新八は夜な夜な、姉ちゃんに借りた車で練習がてらその辺を走り回った。
走り回りながら色々と妄想した。
これから車で、海へ行ったり山へ行ったり街へ行ったりするのだ。
しかもバスとか自転車と違い、車の中は外と仕切られた個室だ。車の何が素晴らしいって、好きなようにどっかに行けるのは勿論の事、個室ごと移動出来るというのが素晴らしいのだ。他の人に迷惑をかけたりせずに、思い切りたかちんと騒いだり、お通ちゃんのCDかけたりしながら海とか山とか街へ行けるのだ。

そしてあれだ。
車にはたかちんだけでなく、彼女とかを乗せる事も出来る。今はいないが、というか今までいた事なんかないが、彼女を乗せたりも出来るのだ。
こう、助手席に乗せたりも出来るのだ。

新八は、マニュアル免許を取ってよかったと思った。車校で教習車がエンストを起こす度に、チャラい主張をしたたかちんと、それに迎合した自分を呪ったが、無事に免許を取得した今となっては、彼の言った通りだと思った。
そんなもんいた事ないから何とも言えないが、彼女というのはきっとオートマ限定の免許を取っているものだろう。だから新八がギアを2速とかにするのを見て、『マニュアル車って難しくない?』とか訊くだろう。新八はふっと笑って『別に、そんなことないよ』とか答えるのだ。

「ははは、…はははははは!」

テンションが上がってきた新八は、暗い夜道を姉ちゃんの車で走りながら、でかい声で笑った。
なんせ車は個室なので、一人で笑ってても差し支えがなかった。

助手席に乗せた彼女。
新八は慣れた様子で片手運転しながら、もう片手を彼女の方に伸ばすのだ。そして、手を伸ばした先には、スカートに包まれた彼女の太股がある。

…このへんに違いない。
新八は、エア彼女の太股を左手で撫で回した。

その時だった。

ドスン、という音と衝撃が新八を襲った。
反射的に新八はブレーキを踏んで、車は停止したが、何が起こったのかわからない新八はエア彼女の太股を撫で回していた形のまま固まった。そして、ヘッドライトに照らされる路上を呆然と見詰めた。

場所は住宅街だ。
暗く静かな、車2台分ほどの幅員の路地に、街灯が白い光を落としている。それに対して垂直に、停止した新八(の姉ちゃん)の車のヘッドライトが橙色の光を投げていた。

白い街灯と橙色のヘッドライト。それらが直交するところ。
それを目にした新八は、ギャアア、と思った。そして

「ギャアア」

と、口でも言った。

路上には、人が倒れていた。

新八(の姉ちゃん)の車がはねた人が、街灯とヘッドライトに照らされて、ぴくりともせずに倒れていた。





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