ベアハッグ

海岸で貝殻を拾っていたら、向こうから銀さんが

「長谷川さーん」

と俺の名前を呼びながら波打ち際を走ってきたので、

「銀さーん」

と俺が呼び返して手を振ったら、

「長谷川さーん」

と銀さんはまた俺を呼んでもっと走ってきた。

銀さんがあんまり走ってくるから心配になって、

「銀さーん、そんなに走ると転んじゃうよー」

と言ったらその途端に、銀さんは派手に転んで波しぶきをあげた。

「銀さーん」

「…長谷川さーん」

俺は拾っていた貝殻を慌てて捨てて、銀さんに駆け寄った。

「銀さん大丈夫?」

「…長谷川さん」

砂の上にうつ伏せになった銀さんを起こしたら、銀さんは波をかぶってびしょびしょだった。

俺は、濡れて頬っぺたに張り付いている銀さんの髪の毛を後ろに撫で付けてあげた。

銀さんは目をつぶって、大人しくされるままになっていた。

「銀さん、どこも痛くない?」

目をつぶった銀さんの、高いんだか低いんだかわからない鼻の頭に砂が付いていたので、

俺が優しく指先で拭ってあげると、銀さんは

「長谷川さーん」

と何度目かわからない俺の名前を呼んで、俺の肩の上に両腕を伸ばしてきた。

銀さん。

抱っこなの銀さん。

「銀さん」

「長谷川さん」

俺はびしょ濡れてしょっぱくなってしまった銀さんを、超かわいいと思って抱きしめた。

あんまり強くすると銀さんが苦しいから、俺はそっと、ぎゅっとした。

「…長谷川さん」

「何、銀さん」

「長谷川さんの好きなものって何だよ」

そんないじらしい事を銀さんが言うから、俺はますます銀さんをかわいいと思った。

だから俺は、銀さんの濡れて冷えて赤くなった耳のそばで、

「銀さんだよ、銀さん」

と、教えてあげた。

銀さんは俺の答えを聞くと、俺の背中に腕をまわして抱きついてきた。

銀さん。

かわいいよ銀さん。

「…じゃあ銀さん、銀さんの好きなものは?」

俺がそう聞いたら、

銀さんは少しも考えずに答えた。



















「金」


「金に決まってんだろが」



















そう言った銀さんの目はあまりにもマジだった。




銀さんのマジすぎる目を見て危険を感じた俺は、銀さんとの抱擁を解除しようとしたのだが、

銀さんの腕は俺の背中にがっしり食い込んでいて俺ごときが何かしたところで全然外れそうもなくて、

どうしようもなくなった俺は、やめて放して、と銀さんにお願いしたが、

銀さんは何一つ言わずに、お願いする俺をマジすぎる無表情でうつろに見つめるだけだった。

そしてマジすぎる無表情の銀さんの腕は一分の隙もなく俺の背中を締め上げ続けて、

俺は、もうすぐ俺の背骨はへし折れる、と思った。



銀さん。

銀さんやめて。

どうして何も言わないの。

銀さん怖いよ。

背骨が折れる。

目が怖い。








…でも、こういう銀さんも、結構かわいいと思うのだ。

俺は、表情のない銀さんに背骨を折られそうになりながら思っていた。

なんていうか銀さん、あれだよ。








あんたは怖かわいい。









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