(3)



この町には半月の間滞在しなければならなかった。相変わらず打ち解けられない会ったばかりの親戚の家は他人の家同然だった。
都会の子供である新八は、地下鉄すらないこの田舎の小都市でどう時間を潰せばいいかわからず、自然と足は毎日この崖に向かった。
崖には必ずそれがいた。
新八はそれの近くで音楽を聞いたり携帯を弄ったりして日々を過ごした。

それはまるで生きている人のようにそこにいたが、新八には全く意識を向けなかった。
違う次元にいるからなのか、そもそも向ける意識などないのかはわからなかった。何度か声をかけてもみたがやはり反応はなく、それでも新八は毎日長い時間をそれの側で過ごした。親戚の家は居心地が悪く、そして、それの側は居心地が良かったからだ。
なにかはわからないが化け物の類いである事は確かなはずなのに少しも恐ろしくはなかった。死がまだ間近にある新八にはオカルト的なファンタジーを恐れたりする感受性が鈍っているのかも知れなかった。

ある日、崖に行くと、それはその場で横たわっていた。
馬鹿な話だが、具合でも悪いのかと思い、新八はそれを覗き込んだ。
それは両腕を頭の後ろに敷いて、うたた寝する態だった。なんだ、と思い、それから、ふと寝息でも聞こえはしないかと思い付いた。
そんなはずはないが、もしかしたら、と思うと確かめてみたくなった新八は、仰向けるそれの顔の上に顔を近付けた。
それは多分大人の男だと思われたが、至近から眺めると随分ときれいに見えた。半ば透けているせいで生身の人間に見られる欠陥が見当たらず、新八は素直にきれいだなと感心した。
生きている時はどうだったのだろうか。この肌の上にはやはり、傷や皺や汚れがあったのだろうか。

生きている時はどうだったのだろうか。
彼は、どんな人だったのだろうか。
何をして、何を思って生きていたのか。

寝息はやはり聞こえなかった。吸って吐く、空気の動きさえ感じない。
それでも、彼と話をしてみたい。

目を閉じたそれの髪に触れようとした新八の指は、やはり何の感覚も抵抗もなくすり抜けて地面に付いた。




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