(2)


翌日、新八はそこへ姉を伴って訪れた。
新八の話を聞いた姉は嫌な顔をした。当然だ。姉にとってもまだ、死は痛いほどに現実なのだ。幼稚なオカルトなど、ささくれた神経を逆撫でするものでしかない。
しかし弟の様子のあまりの真剣さに、彼女は折れた。新八の主張を信じたというよりは、そう主張する新八を心配したのだ。

果して、それはそこにいた。
場所は昨日と同じだったが、今日は崖に体を向けて腰を下ろし、町並みを見下ろす形だった。
その外形は霞んでおぼろげで、やはり向こうの景色が透けていた。
新八は、自分が嘘を言ったわけではない証拠を指で指し示した。
姉は新八の指の先を見てから新八を見た。そして言った。

「なにも見えない」


姉に見えなかったこれは、自分の幻覚なのだろうか。
新八はそれが腰を下ろしているすぐ横に並んで座り、それを見た。
向こうの景色が透けるそれは、透けてはいたが新八には確かに見えている。眠たそうな間抜けな表情と酷い癖毛があまり幽霊らしくなくて、どこか可笑しかった。
服装は古臭い。以前に見た、父親が子供の頃の写真で、自分が小さい頃と瓜二つな父親と一緒に写っている大人達が丁度こんな格好をしていた。
しかし写真に写る彼らとは違い、それはよく見るとまるで本当にそこにいるように、暇をもて余している人のように時々身動きした。体勢を変えたり、腕を掻いたり、欠伸をしたりさえした。
明らかにこの世ならざるもののくせに、妙に生々しい様子で、それはそこにいた。

ほんとうに幽霊なのかな、と思い、新八はそれに指を伸ばした。
伸ばした指は、映写機が映す映像に触れようとした時に似て、何の感覚も抵抗もなく、ただすり抜けた。




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