入れ替わり話(おわり)
2013/05/11 23:24

「お前のためってあんた、ひ、人の見てないとこで勝手に、人の体をか、か、開発…」

「だから、開発は挫折したって言ってんだろ。お前だって俺が見てないとこで俺に恥ずかしい台詞言わせて喜んでたじゃねぇか」

「それとこれとは話が違うだろが、このレイパーがあぁぁぁ!!」

なんという事だ。
僕は僕の見てないとこで未遂とはいえ汚されてしまったのだ。しかも限りなくエゴイスティックな理由で、あたかもキツいズボンのウエストボタンの位置を変えるようなドライな感覚で、僕の大切な純潔が、こんなクソ野郎に。

そりゃ確かに、いつかそれを求められた時には許すつもりでいた。
しかしそれは銀さんが『新八。俺だってお前を愛したいんだ』とか言って、そしたら僕が『いいですよ銀さん。優しくしてくださいね…』とか頬を染ながら応え、銀さんが『悪ぃ、痛ぇか?』とか僕の髪を撫でながら訊いて、僕が『大丈夫です…嬉しいです、銀さん』とか言って銀さんを抱き締めて、銀さんが『ふっ。お前の中、熱ぃよ…』って柄でもなく恥ずかしそうに呟くみたいな、そういうシチュエーションを期待していたのであって、『狭いから拡げた』とか、そんなんでは断じてなかったはずだ。
そんな、牛乳パックの開け口に記載されている【@ひろげるA押し上げるBあける】みたいな感覚で行われるような事ではなかったはずなのに。

「だから、挫折したって言ってんだろ。面倒くさくなったっつうのもあるし、それに途中でお妙が」

「姉上が?!」

あんまし風呂が長いから心配したらしいお妙が、『新ちゃん、あなた何してるの?生きてる?』って風呂の戸をがんがんに叩くから、『お前なあ!思春期の弟が風呂こもってんだからちょっとは察しろよ!』って、つい言っちまったんだ。
『何よ、お前って!なんのつもりだコラ!ていうか、何してんのあんた!』『うっさいな!いいからあっち行ってろよ!』『何ですって!何よその口のきき方は!開けなさい!』『嫌だ!』

「喧嘩になってな。最終的には諦めてくれたが、そのやり取りで折れかけていた俺の心は本格的に折れて、それで挫折したんだよ。まあ、よかったな。お前の貞操は姉ちゃんによって守られたんだ、うんうん」

うんうんじゃねえ。

僕は新八君の上で絶望した。
絶望し、両手で顔を覆って泣いた。もう姉上と合わす顔がない。家に帰れない。

「心配すんな。新八は今、俺だ。だからお妙と顔を合わすのも家に帰るのも俺なんだから、お前は何も心配しなくていいんだ」

新八君の銀さんは、そうほざいて泣きじゃくる銀さんの僕の背中を撫でた。口調も仕草もとても優しかったが、僕はもう騙されなかった。

「あんたが僕だっつうのが一番心配なんだよ!」




パチッと開いた目に朝日が眩しかった。
そして、差し込む朝日のせいだけではなく、視界がぼやけている。ぼやけた視界に映るのは万事屋ではない自宅の自分の部屋の天井だった。
目覚めた僕は、いつもの習慣で取り敢えず体を起こした。体はすぐに起き上がった。
起き上がった体はだるくもなく、体力気力がそれなりに漲っていた。
僕は、すっきりした意識で部屋の隅にある鏡に近寄って、その中を覗き込んだ。

目二つ、鼻一つ、口一つ、その他とりたてて特徴なし。寝癖がついているが真っ直ぐな黒い髪。
僕だ。

何の前触れもなく、僕は新八君に戻った。
昨夜、『姉上に変な事しないでくださいよ。絶対ですよ』と言いながら、新八君である銀さんを万事屋から送り出したのだが、その後、寝ている内に元に戻ったのだ。
よかった。僕は、僕の若さと青春を取り戻した。
新八である銀さんが、姉上に変な事しないで大人しく寝たのかどうかは不明だが、とにかく僕は僕に戻った。





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