リクエスト文(つづきのつづきのつづき)
2013/03/21 22:49
新八君が僕の手首を床に押し付けようと掴んだそこに力を入れる。僕がそうさせまいと掴まれた手首を押し返す。
力が拮抗して、僕の手首は空中でぶるぶる震えながら留まった。
「ぎ…ぎぎぎ」
「ぎぎぎぎ…」
変な唸り声を食い縛った歯の間から漏らす僕を、新八君も同じような音を歯の間から漏らして言う事を聞かせようとする。
「お、大人しくしやがれえぇぇ」
「い、嫌ですうぅぅ」
中身は違っても、悲しいかな外身は新八君だ。パワーは新八君なのだ。僕と新八君はしばらく『ぎぎぎ』状態を続けたが、勝ったのはやはり銀さんこと僕だった。
掴んだ手首をはねのけられた反動で、新八君は僕の横の床に仰向けて転がった。勝ったは勝ったが微妙な気分だ。もっと頑張れよ新八、悲しくなるだろ…。
頑張れなかった新八君は直ぐ様起き上がろうとしたが、パワーだけでなくスピードも銀さんの方が上回っていた。
僕は、もがく新八君に被さって床に押さえ付けて言った。
「銀さん、あんた何考えてんすか!」
「…銀さん?だから銀さんはあんたでしょうが。なんすか、本当に頭がアレになっちゃいましたか、ヒヒ」
「この期に及んであんたという人わぁぁぁ…」
「おい、銀さん。んな事言っといて、てめーのちんこ何だそれ。えれぇ事になってんぞ」
「やかましいわぁ!」
僕は嫌らしい顔で嫌らしい事を言う新八君の頬っぺを思わずひっぱたいた。
「誰のせいだ、この淫乱が!」
殴られた新八君は小さく悲鳴を上げ、ギュッと目を閉じた。
あっ、また新八ボディーのつもりで全力で殴っちゃった。
「淫乱ってお前…」
目を閉じた新八君は低く呟いた。いかにも酷い事を言われて傷付いた、という呈だ。
…なんだそれ!酷い事をされたのは僕だかんね!
なんか知らないけど急に銀さんの体になっちゃって、わけわかんないうちに自分だとしか思えない奴が現れるわ、しかもその中身が誰だかわかんないまま想像もしたことないような事されて、今まで味わったこともないような感覚にヒイヒイ言わされて、凄く怖かった。
そうだ、怖かったんだ。
色々怖くて怖くてたまんなかったのに、ニヤニヤ笑いながら弄ばれた。
あんまりだ。
あんまりだろう。
「…えぐ、」
改めて自分の置かれた状況を思い返した僕は、あまりの酷さに喉がしゃくりあげるのを止められなかった。
胸の辺りに淀んだ重たいものが気管と鼻腔に込み上げて、ついでに涙腺をぐいぐい押した。
「ぅ、うええ」
僕は新八君の体に乗り上げたまま、もういいや、と思って溢れる感情に逆らわず涙をぼろぼろ落として泣いた。まるで小さい子供のように。
どうせ見てるのは銀さんなわけだから、見られたって構うもんかと思い、盛大に泣いてやった。
「ちょ…やめろよ…。泣くなよ…」
新八君が僕を見上げて困り切ったような顔をした。
うるせーよ。そんな新八みたいな顔で見んな。
僕は下からの新八君の視線を避けるように、顔を上げた。
「………」
…ところで。
万事屋の居間兼応接室にはテレビが置いてある。部屋の隅っこに、どの位置からでも見れるよう画面がななめになるように。
今日はよく晴れていて、電源が切れて暗いブラウン管は明るい室内の様子を結構はっきりめに映していた。
テーブル、ソファ、ずれたソファ。
そして、そのずれたソファとテーブルの間に仰向けて転がった新八君と新八君に跨がる銀さん。
「………」
テレビ画面の中の銀さんは、寝間着をだらしなく肌蹴た半裸で、力なく落とした肩を震わせていた。時々しゃくり上げるせいで、中途半端に剥き出した上体が小刻みに痙攣した。消えたテレビの画面に映っているだけだから勿論鮮明ではないものの、今、近視でなくなっている僕の目には、それらの様子がそうなっているとわかるくらいにははっきりと確認できた。
「…こ、」
…これは。
モノクロの、細部までは見えないが物の輪郭とパーツの位置ならわかるという微妙な光景。
その中には、幼児のような仕草で嗚咽する半裸の銀さん。
嗚咽の痙攣に合わせて、下腹部では半勃ちのちんこも震えていた。
なんだろうこれ…。
なんつうか、まるで…まるで。
それはまるで、悪人に弄ばれ凌辱され、絶望して弱々しく泣き崩れているかのような、そういう姿だった。
こ。
こここ、これは…。
「んな泣くなよ。…俺が悪かったよ、調子にのりすぎた。謝る。…だから、んな泣くなよ…」
僕の下で新八君がなんかごちゃごちゃ言った。
僕は、
「…ちょっと待て。うるさい」
と、こうるせー新八君を制止し、改めてテレビの画面を食い入るように見た。
凌辱され幼児のように泣く銀さんの顔は見たこともない程弱々しく歪んで、その頬に流れた涙が窓からの陽光で、きらきら反射していた。
なおかつ、寝間着を中途半端に剥かれたエロい半裸。半勃ちで震える美形のちんこ。
なんという、…なんというレア画像。
神よ。
僕の目を良くして下さってありがとうございます。
「怒ったか?怒ったよな…。ごめんな。お前なら許してくれるかと思って、ふざけたんだ、俺。でも甘えすぎてたよ。だってお前、まだこんな事で遊べる歳じゃねぇもんな。ほんとに悪かった、…ごめん」
なんか言ってる新八君が、なんか言いながら弛んだ寝間着の中のみぞおち辺りにひんやりした手を当ててくる。…のがテレビの画面に映る。
エロい感じじゃなくて、なにか大切なものを愛しむみたいな優しい感じで撫でる。…のがテレビの画面に映る。
「許してなんて言えねぇけど、許してくれ。今更信じてくれなんて言えねぇけど…」
柔らかい喋り方と柔らかい声。
そして、新八君は僕の手をそっと取り、お姫様にするように手の甲に接吻した。
お、おおおおお?!
「…大切に思ってるから」
や、…やさしっ!
優しいよ!
新八君が、…新八君がやさしっ!
中身はド鬼畜・クソ野郎の銀さんなんかも知れないけど、でもなにこれ、この、声。
…僕、こんな声出せたん?
僕、こんな声で銀さんになんか言ってたん?
なんかこんな素敵な感じで銀さんに接してたん?
僕、こんな優しかったん?
こんな、なんか、こんな…。
見下ろしてみると、新八君は僕を真っ直ぐ見上げていた。
でかい目にぐっと力を入れ口元を引き締めた、まるで誠意そのものを感じさせるような表情。
一生懸命です、それ以外のなにものでもありません、みたいな表情。
思わず、全てを預けてみたくなるような、真摯な表情。
やだこれ。
なにこれ。
つうか、僕が、僕が、
僕……格好いい。
「ア、」
その瞬間、新八君に撫でられる脇腹がゾクッとなって、僕は思わず高い声を上げた。
それで聞こえたのは銀さんの声だ。
虚勢を全て捨てたよーな、甘えたよーな、と…ととと、溶けるよーな…。
「ごめん」
と、囁くように優しく、しかし悲しげな声音で言いながら新八君が僕の首に腕を回してくる。
「…し」
しんぱ…。
格好いい新八君に近付かれた僕は、持ち上がった新八君の後頭部をおずおずと掌で支えた。
広い掌にぴったりフィットする丸い形。
新八君は、掌に頭を固定されると嬉しそうに、ふっ、と微笑んだ。
形は可愛らしいのに、限りなく優しげな表情はどこか渋い。
「キスしていい…?」
それは先月末に銀さんと二人きりになった時に僕が言った台詞だ。
どっちかっつうとまだ高い子供声なのに、優しい口調がすごく男らしくてカッケー。
あ、あああああ。
中身が銀さんだからか。そう思って見るからか。
どうなんだ、わからん。
わからんが、もういいや。
カ、カッケー!
新八君カッケー!僕カッケー!
僕、すごいハイスペック!!!
「いい。していい」
むしろしてくれ。メチャメチャにしてくれ。
という気持ちがダダ漏れになった銀さんの声は、かつてなく健気な感じで逆にそれがエロだった。
ぎ、銀さん!!
「ありがとな」
新八君はちょっと恥ずかしそうに言うと、僕の唇に、むにっ、と唇を押し付けた。
いきなり舌とか入れるわけでもない、どっか控えめなチュー。
しばらくそうしてから、新八君は唇を少し離すと、
「ちょっとしょっぱい。…ああ、泣いたからか」
と言って、ふ、と笑った。
ぎ、銀さん!!いや、新八!!
………。
……やっぱ銀さんんん!!