リクエスト文
2013/03/15 21:19

朝起きたら、万事屋の天井が見えた。

昨夜は泊まったんだっけ。帰ったような気がするけど万事屋の天井が見えてるって事は帰ってなかったんだ。昨日は仕事が終わるのが遅くて、すごく疲れてたから最後にどうしたかの記憶が曖昧だ。

僕は目が覚めたらとりあえず起き上がるのが習慣だ。
だからいつものように起き上がろうとしたが、何故か今日はそんな気にならない。なんかだるい。このまま布団と仲良くしていたい気がする。
なんだろう。昨日が忙しかったから疲れが取れていないのか。それともまた風邪でも引いたかな。
熱を測ってみるか、と思ってやたらだるい体を苦労して起こす。

あれ、と僕は思った。
なんか、重い。体が重い。
そしてなんか、精神的にも重い。いつもみたいに、朝だぜ畜生すっげえ嫌だけど仕方ないからやってやんよ!みたいなモチベーションが沸いてこない。
更には、寝起きで眼鏡をかけてないはずなのに視界が妙にクリアだった。

やっぱり風邪だな。視界がクリアなのは何でかよくわからんけど。やだなぁ、なんだか最近風邪ばっか引いてる気がする。
僕は重い体にムチ打ってなんとか立ち上がり、部屋の隅にある小引き出しまで行った。
体温計体温計。
ボールペンとか爪切りとか、あと何故か洗濯ばさみとかががちゃがちゃに詰まった引き出しの中を探るが、体温計はない。なんでだ、先週まではあったのに。何故いらない時にあって、いる時にない。
若干苛つきながら、別の心当たりを探すかと思った僕は、ふっと顔を上げた。
上げた顔の正面、小引き出しの上には安物の卓上鏡が置いてある。

「………」

僕は鏡を二度見した。
二度目に見た時は、鏡を両手で持って、中に映るものをまじまじと凝視した。

鏡に映っていたのは寝起きの新八君じゃなかった。

「ギャアア」

思わず上げた悲鳴も新八君の声じゃない。
鏡には、寝起きの銀さんが映っていた。




僕は銀さんになった。

…なんだそれ。
自分でも意味不明だが、そうとしか言いようがない。志村の新八君たる僕の意識は、坂田の銀さんの肉体に収納されていた。
そんなん…そんなん…、リアクション不能だろうが。

「なんアルか。うるさい」

声を聞いた神楽ちゃんがやって来た。
神楽ちゃんは、既にきちんと着替えて、しかも微妙におめかししていた。手に豆ぱんを持って、ムシャムシャやっている。

「…か、か、神楽ちゃん」

「なんアルか」

「ちょっと相談があるんだけど」

「なんアルか」

「あの…ちょっとややこしい相談なんだけど、いい?」

「嫌アル」

そっこーで神楽ちゃんは拒否した。

「そ、そんな事言わないで。頼むよ聞いてよ」

「嫌アル。私はこれからそよちゃんとナンクロやる約束アル。急いでるアル。9時までに行く約束アル。そよちゃんは多忙アル。やっとアポ取れたアル。邪魔だてしたら、国家権力がお前を潰しにかかるアル」

そんな厳格な予定まで入れてやる事か、ナンクロが。

「帰ったら聞いてやるネ。但し14時からはよっちゃんと駄菓子屋を攻める約束アル。帰宅後、次に出掛けるまでの間、概ね1時間の間になら聞いてやるネ。じゃあな」

極めてどうでもいい活動を厳密なスケジュール管理のもと行っている神楽ちゃんは、豆ぱんをムシャムシャしながら行ってしまった。ワンワン、と嬉しそうに定春が走って追いかける。

「おう、定春。忠実なる我が愛犬よ。江戸城まで伴をせい」

なんで戦国武将みたいな口調なんだよ。

しかし今は、突っ込みとかそれどころではないから放置した。何よりも僕は今、新八君ではない。
ガラピシャ、と玄関の戸が開いて閉まる音がして、僕こと志村新八の意識と銀さんこと坂田銀時の肉体は万事屋に取り残された。



なんなんだろう。
僕はどうしたらいい。
なんですか。これは何かの罰ですか。僕、何かしましたか。若さ、青春、健やかな力が満ち溢れる体、そういうものをいきなり奪われ、低血圧、無気力、もうそろそろ若者と呼んでもらえなくなる年齢、そういうものを押し付けられる程の罪を僕は犯しましたか。もし犯したんなら先に口で何か言ってくれよ、裁判もなくいきなり懲役とかあんまりじゃないか。そりゃ確かに目はちょっとよくなったかもしれないが、マイナス部分が多すぎて全く釣り合わない。

僕は寝乱れた布団の上に膝を付き、それから上体を突っ伏して、

「こんなの嫌だぁぁぁ」

と声にして嘆いた。
当然だが嘆いてどうにかなるわけでもなく、嘆き終ると僕以外無人の万事屋はしーんと静まり返り、僕は寂しくなった。
寂しくなった僕は、肘を付いた四つん這いで嘆きに閉じていた目を開く。
銀さんの体で囲われた空間が見えた。寝間着が緩んで、胸元から膨らむみたいに垂れ下がっていた。その緩みの奥に、銀さんの体が見える。

「………」

いつ鍛えてるんだか知らないがきれいに隆起する筋肉が、白い、すべっとした皮膚を押し上げている。男らしくて格好いい形の肉を何か知らんがなまめかしい女っぽい皮膚が覆っている。…総評として、何かエロい。体自体が何か倒錯的。
極めつけが、胸の左右やや下あたりに離れてくっついてる乳首がアニメの女みたいなうっすい色をしている事だ。

「………いや、いかんだろ」

いかんいかん、と僕は思った。
いくら今、志村新八が占有しているとはいえ、これの所有権は坂田銀時にある。所有者の許可もなく勝手にこれをそうしたりああしたりは、社会通念上、許される事ではない。勝手に肌を撫でたり乳首を触ったりしてはいかんだろう。いくらきれいに隆起してて白くてすべっとしててアニメの女みたいなうっすい色をしていたとしてもだ。

銀さん、触ってみていいですか。

と、僕は訊くべきだ。
そして

いいぜ、触ってみ。

と銀さんから許可を受けるべきだ。それがルールというものだろう。社会のルールは守らないといけない。
乳首を触ってみたいなら、僕は銀さんに乳首を弄る許可を受けなければならない。

と、ここまで考えて気が付いた。

ていうか…、銀さんはどこ行ったんだ。
新八君が銀さんに収納されているなら、銀さんは一体どこに収納されているのだ。



僕は、当たり前すぎる疑問に気付いたが、しかし同時に全く別の事にも気付いていた。そしてその事は、疑問よりももっと気掛かりな事だった。

エロい胸と腹の向こう、寝間着の下の丁度脚の間。そこがアレになっている。勃っている。
…そりゃそうだ。朝で、寝起きだからだ。当たり前だ。男性の生理だ。

僕は考えた。
肌や乳首を触るには許可を受けるべきだ。それがルールだ。
では、ちんこはどうか。
ちんこを触るには許可を受けるべきか。
勿論、受けるべきだろう。占有者が所有者の許可を受ける事なく、ちんこをあんなんしたりしてはいけない。肌や乳首と一緒だ。それがルールだ。

但し。
但し、占有者は占有している限りで、所有者の所有物を監督管理する義務も負うのではないか。
借りている土地が荒れないよう、草むしりしたりすんのに、占有者は所有者の許可を受けなければならないか。

「…そんな事はない」

現状維持は、占有者の義務だ。
そうだ。
義務なのだ。

僕は、無人の万事屋の和室の布団の上に一人、踞るような四つん這いのままで、

「これは、権利の行使ではない」

と言った。

「これは義務の遂行だ」




鏡欲しい。
今、すっげえ鏡欲しい。

厠に閉じ籠った僕は、迷わず義務の遂行に着手した。
寝間着の下を膝まで下ろして、朝勃ちしてるちんこを握って、義務の遂行に専念した。

「…あ、あん、あ」

声も出してみた。
気持ちいいのは僕だが、目や耳で知覚する気持ちよがっている体や声は銀さんのだった。
これは凄い。
なんつうか、オナニーなのにエッチしてるみたいじゃん。完全に一人エッチなのに、目や耳から得る情報のおかげで限りなくセックスじゃん。

欲しい。すっげえ鏡欲しい。
ラブホみたいな全身映るやつが欲しい。

「あっあ、はっ、ぁ…凄い、銀さん、凄い気持ちいい」

銀さんっつうか、客観的には自分が銀さんなんだけど。なんつうか、銀さんの体が気持ちいいです。
でも、銀さんが銀さん銀さん言いながら善がってるかと思うと、なんかその病気っぽさに益々興奮した。畜生、この淫乱めが。
…もういいや。折角だから、銀さんなら絶対言わんような事も言ってやろう。

「あぁ…アン、ぁふ、気持ちいいよぅ、もっと!もっと強くしてぇえ!」

完全に占有者の義務の域を越えている。明らか越えている。
どこにいるんだか知らんが、銀さんにバレたら殺されるな、と思ったが、どうせわかんねぇんだし知ったことか、と思った。
なにが社会のルールだ。んなもんはクソ食らえだ。ハハ、…ハハハハハ!

「ひあ、…ぁ、やだ、ゃだあ、もうイッちゃう、イッちゃうよぅ」

絶対殺される。
殺されるが、殺されるんだったら銀さんの声で言ってもらいたい事を思う存分聞いてから殺されよう。

「イッ…く、もぉダメ新八、ダメ、もう…あ、新八、気持ちいいよ、凄い、ふっあ、新八凄い、もっとして、ひァ、もうダメ死んじゃうっああっ」

見えてる銀さんの白い腹筋が、クッと痙攣して、白いファンタスティックな陰毛がカウパーでペッタリしていた。

気持ちいい。凄い。
もうダメ死んじゃう。

「あぅ、ア、ハ…ぁあ、あっ…ふあああァッ!!」

擦っているパンパンに腫れ上がったちんこが手の中で強く脈打ったかと思うと、跳ねるみたいに痙攣して射精すんのを、僕は、でかい声出したせいで乾いた喉で唾液を飲み込みながら陶然と見た。

ああ銀さん、凄いです。
凄い、銀さん凄い。



その時、

「おはよーございまーす」

玄関の戸がガラッと開いて、聞いた事あるようなないような声が聞こえた。

「………」

「銀さーん。起きてますかー」

「………」




…嘘。

新八君来た。




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