あけましておめでとうございます。今年もこんな調子でがんばります。
2013/01/01 23:56
地味な眼鏡っ娘にグッとこない男はいない
…と新八は思っている。
地味な眼鏡、はダメでも、それに『っ娘』が付くと突然グッと胸に迫る存在になる。
と、新八は思っている。
だから地味な眼鏡である自分は、『っ娘』さえ付けばかなりいけている存在になるはずなのだ。
僕に足りないのは『っ娘』だけだ。後は、言ったら完璧に近い。
と、新八は思っている。
新八は、意外と自分に自信のある方だった。
大掃除で片付けきれずに散乱したままの古新聞に載ってた数独をやってる銀時に、新八はその事を言った。
僕は完璧に近い存在であるとかそういう事を。
「………」
銀時は新八をじっと見た。
じっと見てから、物憂げな眼差しを伏せ、意味ありげな唇を少しだけ開くと、静かに言った。
「…この横の列、9が二つ入ってんだけど、どこで間違ったんだろう」
新八は、テーブルの上の新聞紙を鷲掴み、手の中で一塊に握り潰して後ろに放った。
「なにすんだ。俺が生まれて始めて完成させた数独を」
「9がダブってんだから完成じゃねぇだろ馬鹿」
「なんだ畜生。ちょっとばかし自分が得意だからって」
新八は数独が得意だった。銀時は数独が苦手だった。そして数独が得意な新八に、銀時は強い嫉妬を感じていた。
が、今そんな事は関係なかった。
「銀さん。銀さんだって萌えでしょう、地味な眼鏡っ娘」
「そりゃ萌えだ。男は大体萌えだろ」
「じゃあ僕に『っ娘』が付いたら萌えになると思いませんか。僕に足りないのは『っ娘』だけだと思いませんか」
「…ああ?」
銀時は鼻の穴を広げ唇を曲げたぶっ細工な顔をした。
新八はめげずに言った。
「『っ娘』でしょう?僕に足りないのは『っ娘』なんですよね?」
「なに言ってんだお前は」
銀時は素っ気なかった。
しかし新八は、それは銀時が
そうだ。お前に足りねぇのは『っ娘』だけさ。もしもお前に『っ娘』がついていたら、俺は、俺は
…とか言うのが恥ずかしくてそのような態度を取っているのだと思い、
この照れ屋さんめ、でもそんな素直じゃないとこがいい、わかってる、わかってますよ僕は、だから今年も可愛がってやるぜ
とか言って銀時を可愛がろうと銀時に手を伸ばした。
しかし、その瞬間、銀時は信じられない事を言った。
「お前はアホか。お前に『っ娘』がついたらなんで萌えなんだ」
「はあ?」
新八は銀時の言った事の意味がわからなかった。
「いや、なんでですか。地味な眼鏡っ娘萌えるって言ったじゃないですか。だったら地味な眼鏡である僕に『っ娘』がついたら萌えでしょうが」
頭が悪いからわからないのかと思い、新八は丁寧に説明してやった。
銀時は黙って聞いていたが、
「いや、お前は確かに地味な眼鏡だけどもよ、それに『っ娘』がついたからって、別に萌えねぇなぁ」
などとのたまった。
「それはその眼鏡っ娘を僕だと思うから萌えないわけであって、全く予備知識なく、僕だと知らないで『っ娘』がついた僕がいたら萌えるでしょう?だって、完璧ですよ?完全に完璧な地味眼鏡っ娘ですよ?」
「お前が?お前が完璧な地味眼鏡っ娘?」
銀時は釈然としない顔をした。
新八は、自分が地味な眼鏡である事を、自分が『っ娘』以外完璧であるという事を、ひいては自分のプライドのあり所を疑われたと思った。
許しがたし。これはもう実力行使にでるしかない。
新八は、
「見ろ、これを!」
と、物証を叩き付けてやった。
「萌えでしょうが。明らかに、明確に萌えでしょうが!」
馬鹿に理屈は通じない。しかし目で見る形で示してやれば、さすがの馬鹿も理解するだろうと思った。
しかし、それを見た銀時は
「……フっ」
と、鼻で笑ったのだ。
しかも、
「これが?こんなんがお前にとっての萌えな地味眼鏡っ娘なんか?」
と挑戦的に言った。
新八は
「そうです!見たまんま萌えじゃないですか!…え?なんすか?銀さんはこれが萌えじゃないって言うんですか?」
と攻撃的な口調で言い返してやった。
銀時は、
「まあ、人によってはカワイイと思うんだろうなとは思うけど。萌えとまでは言えねぇなぁ」
相変わらず鼻で笑いながら言った。
「なにぃいい…。じゃあ、あんたの『萌えな地味眼鏡っ娘』ってのはどんなんなんですか!見せてみろよ、見てやるからよ!」
「っせぇな。でけぇ声出すなよ。…ホラよ」
「………」
「特に、『隠れ』巨乳、の部分がいい」
ドヤ顔で宣言する銀時。
新八は、銀さんはわかってない、と思った。
「なんすか。こんなもん、ビッチに地味と眼鏡かけさせただけじゃないすか!」
「『隠れ』巨乳、も忘れるな。これ重要だから」
「知らねぇよ!」
新八は、銀時の萌えな地味眼鏡っ娘を払いのけた。
「あっ!なにすんだテメー、めいちゃんを!」
「いいですか銀さん!あんたわかってない!あんなもん全然地味な眼鏡っ娘じゃない!…地味な眼鏡っ娘っていうのはねぇ、あんなふうに男の目を見て笑うみたいな媚びた真似はしないんです!好きだけど恥ずかしくて見れない、そういう奥ゆかしさが萌えなんです!」
「はあ?なんで?好きなら見ればいいじゃん。意味わからん」
「見たくても見れないんです!地味な眼鏡っ娘は奥手でそんな経験ないから、できないんです!それに、こんな地味な眼鏡な自分が笑いかけるなんてヘンかもしれない、迷惑かもしれない、でも好きだから笑いたい、だけどできない。そういう迷いとか自信のなさ、それに邪魔されて素直になれずに俯いてしまう感じ、思ってる事も伝えられない弱々しさ、それを男が優しく包み込んであげる、そこにロマンがあるんです!」
「…じゃあなに。じゃあこいつ
は、好きなのにこっち見もせんと、下向いて、ずっと自分の中で何か考えてんのか」
「そうです!」
「こっちから何かしてやらん限り、ずっと下向いてんの?」
「そうです!奥手で大人しいから!思ってる事も伝えられないんです!それが地味な眼鏡っ娘なんです」
「ふーん…」
銀時はようやく理解したのか、ふーん、と言いながら腕を組み、何かを考えていた。
「わかりましたか、真の完璧な地味眼鏡っ娘というものが」
新八は銀時を論破した達成感に満足した。
銀時は、考えていた何かに結論が出たのか、組んでいた腕をほどいた。そして言った。
「なあ…。………ウゼくねぇか、そいつ」
「…え?」
「ウゼエっつうか、キモい」
銀時のまさかの結論に呆然とする新八は、咄嗟に反論することもできずに、銀時の前に立ち尽くした。
「わかった。俺が間違ってたわ。俺は、地味な眼鏡っ娘は萌えじゃないわ。全然萌えじゃないわ」
「いや、あの、ていうか…。僕は僕に『っ娘』がついたら可愛くないですかっていう話をしてて…。だから地味な眼鏡っ娘は萌えじゃないですかって、そういう事だったんですけど…」
「いや。俺は地味な眼鏡っ娘を誤解してた。俺、地味な眼鏡っ娘は萌えじゃないわ。…ていうか、むしろキモい」
「………」
立ち尽くしたままの新八。
銀時は椅子から立ち上がると、さっき新八が放った新聞を拾い、手のひらで皺をのばしてテーブルに広げた。
そして、物憂げな眼差しを伏せ、意味ありげな唇を少しだけ開き、静かな声で
「…それでな、ここの横の列、9が二つあるんだけどよ…」
と言った。
新八は、どうしたらいいかわからなくなった。
なんか、明らかに何かを失敗したと思えたが、今さらどうすべきだとも思えなかった。
なので、
「…ここの横の列、9が二つあるせいで5が入ってないですよね、まず、こっちの9を5にしてみましょう」
と、提案した。
新八は完璧に地味な眼鏡だった。
思ってる事も伝えられなかった。
おわり
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