Restless Kind
彼女がフィールドにつくと、西部の選手紹介は終わっていた。なまえはベンチに座っているキッドに近づく。

「腕のコンディションはよさそうね。」
「ま、峨王くんをひきつけるショートパスには十分じゃないかねえ。」

控えめなキッドはそう言った時、重い足音が響いた。峨王だ。

「No.1争いから逃げたこのつまらん男が、お前が推すキッドか。」
「なに…!?」

キッドを貶すような発言をした峨王に陸は食って掛かろうとし、なまえは彼の過去を知っているような発言に構える。

「こいつの目は腐っている。勝ちに喰らいつく覇気も無い。」

峨王の瞳ははっきりとキッドを見据えていた。キッドは何も言わない。どうして黙ってるのよ、と少し不満に思いながらもなまえは黙って見守る。ここは自分が口を出すべきところではないと感じたからだ。

「……陸や鉄馬や…みんなは喰らいついてんじゃないかねえ。」

ややあってキッドは鉄馬の方を見つめながら答えた。

「ここまで来たら勝って絶対行くって気でいるよ、アレに…。」

まだ口に出せる段階まではいっていないのねとなまえはキッドをやさしい瞳で見つめた。
彼は前よりも前進している…それだけで十分だと彼女は思ったのだ。

「……フン。精液の薄い屑に興味はない。」

峨王は面白くないという表情で背を向けて白秋側に戻って行った。




全ての選手が揃って試合が始まる最後のハドルの前に、作戦の変更が伝えられた。変更点は峨王を止めないで、キッドが彼をギリギリまでひきつけるという部分だった。初め、それがキッドの口から告げられた時、ガンマンズは動揺した。リスクが大きい上に、今まで冷めた態度のキッドがそんな命がけのプレーを言うとは思っていなかったからだ。

「……本当にやるのか、キッド。」

牛島キャプテンがいつものような態度ではなく神妙な面持ちで訊ねる。

「はい。」

キッドは迷いのない瞳で答えた。

「…みょうじは?できると思うか?」
「はい、キッドの実力ならば可能です。本人が決めたのなら、異論は……ありません。」

ぎゅっと服の裾を握って気丈に振る舞ってなまえはキッドの隣で頷いた。

「……なら、それで行くか!円陣組むぞー!」

頼もしい案に、キャプテンは強気に笑って選手に声をかけた。



試合が始まると、今まで以上に緊張感が走る。

とうとう始まってしまった。
賽は投げられた。―――試合が始まってしまえば、私はもう見守る事しか出来ない。

なまえは複雑な思いでキッドを見つめていた。試合前の作戦会議の通り、峨王くんはキッドがひきつけて、ショートパスで連続攻撃権を狙っている。峨王の動きがどんどん早くなってきており、キッドはあとさらに0.1秒早撃ちスピードを上げないと、と陸に言った。


西部の攻撃ターンが終わって守備になった時に、なまえはキッドにかけよる。彼の腕の痣が気になったのだ。

「キッド、その痣…!」
「ああ、彼の小指が触れただけだよ。……心配しないで、大丈夫だから。」

キッドの手が彼の帽子越しになまえの頭に触れる。2人がフィールドに視線を戻せば、西部のキックオフがそのまま向こうにタッチダウンされてしまった。

「……それよりも次のことを考えないとね。ひたすら攻めようと思ったらさ…、」
「オンサイドキックの方がいいわね。とられて突っ走られるよりはこっち側に転がす方が分があるわ。」
「やっぱそれがいいかねえ…。」

そう呟いてキッドはフィールド内に戻って行った。


それからは試合の流れは順調に思えた。アナウンスでさえも、西部の流れだと告げていた。


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タイトルはNight Rangerの曲名から。予想外に長くなった…;
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