I Wanna Touch U
「えええ、ボール投げ捨てるの早っ…!」
「がはははは、驚異の早逃げ小判鮫!!ある意味お前の早撃ちの対抗馬かもなあ、キッド!」

噂に聞いてはいたが、生で観るのは初めてななまえはその早さに思わずツッコミを入れてしまう。彼女の驚きを聞いて、横で監督が豪快に笑いながらキッドに振った。それに対して冷静に分析しながらキッドは監督の言葉に苦笑している。

「…そんなバカにしたもんでもないスよ。あれはあれで意味あるしねェ…。」
「そっか、ボールの確保が第一だものね。それにあの人、すぐ逃げるから今まで一度も敵にパス取られたことないんだ…。」

巨深のデータを見ながら彼女もキッドに同意した。その時、小判鮫がパスを投げてタッチダウンを着実に決め、巨深が再び逆転する。しかしそれから残り2秒で試合はひっくり返った。まるで奇跡が起こったようだった。最後の最後で準決勝の相手は泥門に決まった。

「すごい試合、まるで決勝見てるみたいな気分だったわ…。」
「賭けもなまえの勝ち、だねぇ。」

キッドの言葉で賭けをしていたことを思い出し、自分が勝ったことも思い出す。

「うん。……賭けのことは学校に戻ってから言うわね。」
「分かったよ。…さて、そろそろ移動しないとねえ。」

なまえの言葉に答えるようにキッドもそう言って席を立った。そして泥門の勝利を告げるアナウンスを背後にして次の試合に備えるためにキッドとなまえたちは観客席を後にした。



試合はショットガン対策の対策が功を奏したのか江戸前フィッシャーズに圧勝した。

「てかまた寝坊か陸は!」
「…ええ、昨日もビデオを借りていってたのでおそらく…。」

試合開始前ですら連絡はなかったのだからおそらくそういうことなのだろう。なまえはベンチに戻って来て座ったキッドに帽子を返しながらフォローを入れつつ苦笑いをした。

「そういやアメリカ合宿の時も一日遅れで来たな。」
「まあ…勘弁してやってくださいよ。彼もあれでプライド高くて夜中までこっそりビデオ研究してっから…。」
「まーちょうど泥門戦の隠し玉にはなるか!」

フォローを入れるキッドに、スタメンでなくても大差をつけて勝ったので監督は上機嫌に返した。その後、着替えて会場を後にすると、遠くの方で陸がやってくるのが見えた。近くにいるのは泥門の人達のようだ。

「あ、陸くーん!」

なまえは向かってくる陸に向かって手を振り、彼は小走りでこちらに向かって来た。

「遅れて本っ当、すみませんでした!」

合流すると、頭を下げて謝る陸。そしてそれをからかう先輩達。……もはや常習化している。

「おい陸また遅刻かよー!」
「夜中まで激しいプレイのビデオ見てるからだろー。」
「ちょっと!その表現は誤解を生むので止めてください!」

陸が顔を真っ赤にして先輩のジョークに対して至極真面目に返事した。

「次も遅れるんじゃねえの?」
「あー絶対そうだろ。」
「遅刻魔だもんな。」
「いや、次の試合は絶対遅れません!」

指を指しながらからかって言う先輩達に陸は少し焦りながら反論する。

「その心は?」
「なにしろ泥門には何者か知らないけど…アイシールド21がいる。プライドに賭けて勝負しないわけにはいかないんで。」

冗談めかして訊ねる先輩に真剣な表情で陸は強気で答えた。




学校に戻って反省会をした後、2人きりになった部室でキッドは訊ねた。

「…で、結局俺は何をすればいいのかな?」

――賭けの内容は、負けた方が勝った方のいうことをなんでも聞くということだった。なまえは勝ったらキッドに聞きたいことがあった。そしてそういう条件の中だったらきっとキッドははぐらかさずにちゃんと答えてくれるだろうと思っているのだ。


「…私の質問に答えてほしいの。」
「なんだ、そういうことか。何が聞きたいの?」

一体何を言われるのかと思って身構えていたキッドはホッとして身体の力を抜く。

「はぐらかさずにちゃんと答えてね。」
「分かってるよ。そういう約束だもの。」

念を押すなまえに何かがあるなと思いながらもキッドは了承した。そういう約束だし。それから彼女は深呼吸して気持ちを落ち着けてから問題である質問をするためにゆっくりと口を開く。

「………紫苑は、私とえっちしたい?」


それはまさに衝撃と言っていいだろう。なまえからそんな言葉を聞くなど思っていなかったキッドは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。この前のことを随分気にしてたんだなと申し訳なく思うと同時に、誰の入れ知恵なんだと思い、キッドはため息をつく。

「まあ、ねぇ…そりゃあ、俺だって男だからねえ…。なまえに触れたいって思うことは何度もあるよ。」

キッドは彼女にぐっと近づいて手を伸ばして彼女の頬にそっと触れた。
ぴくりとなまえの身体が小さく反応する。


「でも俺はなまえがいいって言うまでちゃんと待つつもりだから。」

この前は君の気持ちを考えずに先走ってしまってごめん、と優しく微笑んでキッドが本音を言った。
するとなまえはほっとしたような表情をしている。


「……。」
「何言われたか知らないけど…まあ、俺たちのペースでのんびりいけばいいんじゃないかねえ。」
「うん。……ごめんなさい、この前は何も言わずに逃げてしまって…。」

なまえはそっとキッドの服の裾を掴んだ。

「や、いいよ気にしなくって。俺の方こそごめん。」

一番大事なのはなまえであって、そういう行為をすることじゃない。
情けないことにこの前の俺は大事なものがなんなのかを見失ってた。
キッドはぎゅうと目の前の愛しい女の子を抱きしめる。


「……この前はどうしたらいいか分かんなくなってパニックになっちゃったの。だから紫苑に触れられるのは嫌じゃない。…それだけは覚えていて。」

キッドの抱擁に安心して、ようやくなまえは本音を彼に伝えることができた。

「だから…だから、もう少しだけ、待ってて…。」
「うん。…焦らなくていい。待ってるから。」

顔を真っ赤にしながら、俺の頬に両手を添えて俺が彼女に触れた時の返事を彼女はしてくれた。キッドはそんな彼女を愛おしく思い、頭を撫でた。それに対してぎゅうっとなまえも彼を強く抱きしめる。キッドにとってはそれがとてもうれしかった。

「ありがとう。……好きよ紫苑。」
「…知ってる。」

彼女が俺を好きでいてくれていることは信じてる。
キッドもそれに応えるように微笑んでなまえの頭に優しく手を添えた。


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タイトルはDef Leppardの曲名から。ちょっとけしからんネタですみませんでした。
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