Die Off Hard
自分で思っていたよりも、俺はなまえを必要としているようだ。


「……どんなに諦めようって思っても、無理だった。…なまえを手放したくないし俺だけのものになって欲しかった。」

今度は落ち着いたトーンでキッドは語った。彼は更に近づいて距離を縮め、なまえの手を取って自分の方へと引き寄せると、彼女を抱きしめる。


「…私ね、いらないって言われたこと、すごくショックだったの。」
初めから失うものって分かってるなら最初からいらない―――確かに俺はそう言った。

「ごめん。」
ぎゅうっと俺はより強く彼女を抱きしめた。
「私は今も貴方が好きよ。今更何とも思わないなんてできない。」
ぽろぽろと涙を零しながらなまえは言う。

「…俺もだよ。今回、君と離れて初めて分かったけど…俺は苦しいくらいになまえのことが心から好きみたい。」
分不相応だって思ってるし、そんな自分の信条に反してる。だけど…それでも彼女を諦められない。こんなに心を揺さぶられた存在は初めてだ。儚げに微笑んでキッドは言った。気持ちを口にしたところで、どうにもならないって分かっていても言いたかったのだ。


「お願いだ。今はまだ、俺を見捨てないで…。君を手放したくない。」
瞳が揺れているのは俺かなまえか。…いや、2人ともかもしれない。
「見捨てたりなんかしないわ。…だって私は紫苑のこと、貴方と出会った8歳の時から好きなのよ?」
俺が耳元で囁けば、なまえは涙を零しながらそう言って軽く俺の唇に自分の唇を重ねる。すぐに唇は離されたが、俺の方からまた彼女にキスをした。

「なまえ…ごめんね。まだ俺の傍にいてくれる?」
「ええ…ええ、勿論よ!」
まるでお互いの気持ちを肌で確認し合うかのようにぎゅうっと強く抱き合う。



「なまえ、君が好きだ…。」
涙を拭うように彼女の目尻にキスをして、それから彼女の唇を奪った。
何度も何度もキスをする。そのキスの合間に俺は愛を囁いた。
その度に彼女も俺の言葉に答えてくれる。
「ん、紫苑、好きよ…。」
なまえの言葉が純粋にうれしかった。
もうこれ以上、彼女と離れていたくなくて何度も唇を啄むようにキスをする。

「好きだよ。」
優しく見つめて、愛を言葉という形にして囁いて。
その頃には理性なんてもう飛んでいた。

「私も貴方が好き…。」
何度もキスをするうちになまえの口が少し開いたので、すかさず彼女の口内に自分の舌を入れて、彼女の舌と絡めてフレンチキスをした。

俺は心からなまえを好きで、彼女を必要としている。
彼女のいない人生なんて、生きたくない。俺は生きたくない人生なんて送りたくない。



「なまえ…っ、」
我慢出来なくなってなまえを資料室の机に押し倒す。
そしてキッドは彼女の上に覆いかぶさってキスをした。
なまえの手が彼の顔を包み込むようにして優しく触れる。



そしてキッドがなまえに夢中でキスをしている時、背後から牛島の声が聞こえた。

「おいテメーら押すなよォォ!」

ガタガタ、バタンッと音と共に人が中になだれ込んでくる。キッドとなまえは驚いてドア付近を見ると、牛島、鉄馬、相内、井芹、本田、陸…など西部のメンバーがいた。


「〜〜〜っ!」

こっそり見られていたことに気づいたなまえは顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせている。キッドも今回はさすがに少し恥ずかしくなってテンガロンハットを深く被った。

「えーと…無事仲直り済んだみたいだね。俺ら心配だったからさ…。」

あはは、と乾いた笑いとともに井芹が口を開く。


「一体、どこから聞いてたの……。」

ぽつりとつぶやくキッドに"ディープキスしてるあたりから"と律儀に井芹は返した。キスシーンを見られてたとか聞かれてたとか恥ずかしいことこの上ないが、とりあえず自分の本名に関しては知られていないのだと知ってキッドは安心する。


「……お騒がせして悪かったねぇ。もうこの通り、大丈夫だよ。」

それに対して、なまえの肩を抱き寄せてキッドは赤みがひかないままの顔で微笑んで答えた。現実と向き合って2人で上手くいかせよう。頑固に抵抗してやる。横にいるなまえにもキッドは優しく笑った。


「いやー良かった良かった。」

井芹と牛島がすっきりした表情のキッドに近づいて肩を組む。鉄馬はキッドの肩をたたき、キッドはありがとうと言った。比奈はなまえに近寄っていって、良かったねと微笑む。なまえはじわりと涙を浮かべて頷いた。

「というかキッド、見せつけるよな〜。ベロチューまでしちゃうなんて。」
「あー、舌入ってんのはっきり見えたな。」

まさか見られていたとは…。それが分かってたならやらなかった行為について言及され、恥ずかしくなってキッドは何も言わなかった。

「さーて、明日どうやって冷やかしてやろうか。」
「ちょ、それは勘弁して下さいよ。」

わいわいがやがや。いつも通りにぎやかで和気あいあいとした空気で、澄み切った星空の下、皆で帰路についた。


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タイトルはHarem Scaremの曲名から。前回の"Secret"のアンサーストーリーのつもり。
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