「…もしもし?」 「こんばんは、黄瀬涼太くんの携帯でよろしいですか?」 「よろしいです…」 「少しお話ししても?」 「はい…」 「…ぷっ、なんでそんなにびくびくしてるの?」
ベッドに投げだしていた脚をたたんで膝を抱えた。携帯越しの声に耳をすます。小さく開けたままの窓から、夜の涼しい風が流れ込んできた。
「や、だって、おととい…」 「わたしと仕事のどっちが大事なの?…なんて言わないから安心してよ」 「ちょ、心臓に悪いんスけど!」 「あはは」 「えーと…じゃあ、なんで掛けてきたんスか?」 「用事がないと掛けちゃダメ?」 「あ、いや、」 「涼太くんの声がききたかったから」 「えっ」 「なんちゃって!ねえ、こういうの言われたらどきってしたりする?」 「なんなんスかもー……。やっぱ怒ってる?」 「埋め合わせしだいかな?」 「こわ!」 「うそうそ、適当でいいよ。わたし、涼太くんがモデルしてるときの顔きらいじゃないし」 「好きとは言ってくれないんスか?(つーか顔って)」 「うわあ女々しい」 「ぷっ、オレも思ったけど」 「あ、」 「どした?」 「ちょっと静かにしてて」 「えっ、いきなりな、」 「しーっ」 「はいっス!」
声が途切れる。きっと、律儀に口をぴったり閉じてるんだろうな。笑い声がこぼれそうになるのを押しとどめて、時計を見上げた。あと十秒。
「…………」 「…………」 「…涼太くん、誕生日おめでとう」 「……あっ」 「えー、うそ、忘れてたの?」 「や、そうじゃないんスけど、日付変わって、うわー12時じゃん」 「あ、ごめん、もしかして明日早かった?」 「それは大丈夫、だけど、あー、だから電話…」 「一番に言おうと思って」 「…うん、一番だった」 「やったー」 「なんスかその反応…。でも、うん、わざわざあんがとね」 「いえいえ。じゃあ、切るね。朝練はあるんでしょ?」 「ん、」 「おやすみなさい」 「おやすみ」
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