押し出されるようにして電車を降りた。ホームからこぼれてしまいそうなほどのたくさんの足音、声、発車を告げる電子音。急いでいるわけでもなかったから、エスカレーターに押し寄せる人たちを空いたスペースからぼんやりと眺めていた。少しだけ待てば、あんなにもみくちゃにされなくたって済むのに。ため息をつきたいような気持ちでふらりと逸らした視線の先で、涼太くんがきれいに微笑んでいた。口をぽかんとあけたまぬけな顔で、まばたきを繰り返す。コツ、コツ、とパンプスのかかとを鳴らして目指す先は、エスカレーターのその向こう。つま先をきちんと揃えて、真正面に立ってみる。
正しく言えば、線路を跨いだ先の広告のスペースに、微笑む涼太くんが写った大きなポスターが貼ってあった。そういえば、制汗剤のCMがどうのこうのって、前に言ってたような。ほかに人がいないのをいいことに、じいっと、目に焼き付けるように見つめる。爽やかという言葉が似合う笑顔。商売用の表情だ、なんて、言い切れる自信はなかったけれど、わたしの隣にいる涼太くんと重ね合わせようとすると、輪郭がぶれるような違和感。期待してそう感じるだけ、かなあ。背中を向けて、エスカレーターから徐々に見えなくなっていくポスターを見下ろしていた。ほんものに、会いたいなあ。