ずうっと続いていた雨が止んで、太陽さえ顔を覗かせた。天気予報のお姉さんだって、貴重な梅雨の晴れ間だって言っていた。からりと晴れた今日は、まさしくお出かけ日より。けれどわたしの心は雨の日よりもじめじめしていた。ほんの1時間前まであんなに浮かれていたのがばかみたい。携帯をぽいっとベッドに放り投げて、ついでに私もダイブする。お気に入りのワンピースが悲鳴をあげたに違いない。
ドタキャンなんて、さいていだ。撮影が前倒しになったのは涼太くんのせいじゃないのに、つい、そう思ってしまった。困らせたくないから、なんて建前を自分に言い聞かせて、「大丈夫だよ」って、気づけば口にしていた。本当は、面倒くさいって思われたくなかっただけ。…でも、やっぱり。
起き上がって、ワンピースの裾をそっと撫でる。まだ、涼太くんの前で着たことはなかった。せっかく晴れたのに、髪の毛がつやつやなのに、まつげがきれいにカールさせられたのに、お気に入りのワンピースなのに。ぜんぶ、涼太くんが見てくれなくちゃ意味がなかったのに。
電話のあとに送られてきていたメールから、返信のメールをつくる。撮影に集中して欲しいのは嘘じゃないけど、わたしのこともほんの少し、気にしてくれたらいい。本文にひと言だけ書いて、そのまま送ろうとしたのを思い直して最後に普段はほとんど使わないハートの絵文字を3つもつけてみた。ねえ、涼太くん、埋め合わせに期待しています。