鮮やかな青空に真っ白な入道雲がぽっかりと浮いている。じりじりという音が聞こえそうなほどに照りつける太陽、うるさいくらいに鳴いている蝉、うだるような暑さ。わたしたちを取り囲むすべてが一瞬たりとも休むことなく、夏だと叫んでいた。
裸足で踏むプールサイドはとても熱い。数秒立っているだけで、足の裏がやけてしまいそうな気さえする。そそくさとプールに歩み寄って、そっとふちのところに腰を下ろした。 風がちっともなかったから、プールの水面はおだやかに凪いでいた。日差しを反射させて、ときどききらりとひかっている。このプールがすこし前までは使い物にならないくらいにぼろぼろだったなんて、うそみたい。つるされた青と黄色の三角形の旗が、なんだかとてもかわいく見えた。 おしりを浮かせて座り直して、姿勢も少しだけ意識する。そろりと伸ばしたつま先が水面に触れて、波紋を生んだ。ちいさなそれはすぐに、溶けるようになくなってしまう。つん、つん、と遊ばせて、それからざぶんと膝のあたりまで、プールに張られた水の中へ。足を包む冷たさに思わず肩が跳ねた。でも、心地いい。夏に溶かされていた輪郭が取り戻されていく。
「どう?気持ちいいでしょ?」 「うん、とっても」
制服のズボンを膝までまくった渚くんがわたしのとなりに座って、同じようにざぶんと足を浸けた。ばしゃばしゃ水を蹴りちらして、はあ、となんともたのしそうなため息をくちびるからこぼす。わたしもならって水を蹴り上げた。宙に散った水滴がきらきらひかって、また水面にかえっていく。 プールは学校の敷地の端の、校舎からいちばん遠いところにあって、グラウンドからも少し離れている。すぐそばの道路を走る車もほとんどない。学校じゃないところにいるような錯覚。練習に精を出す野球部の声が壁を隔てた先にあるように遠く聞こえて、余計にそんな気がしてくる。
「渚くん」 「うん?」 「ふたりっきりだねえ」
海じゃなくてプールに行きたい。水に浸りたい。でも、水着にはなりたくない。 そんなわたしのわがままを聞いた渚くんはふむと考える素振りを見せて、それから、それなら学校のプールに行こう、とわたしに提案した。ちょうど来週、部活のない日があるから、と。 少し俯いた渚くんの横顔。同い年の男の子たちと比べたら童顔で、かわいいなんて言われたりもしているけれど、ときどきこうして、びっくりするくらい大人びた顔もする。今度はなにを、考えているんだろう。
「それは、」 「うん?」 「抱きしめたりしていいよって意味?」 「ばかちがう」 「えー」
ひどいなあ、なんて笑って言う。甘そうな色をした瞳がきらりとひかる。渚くんはときどき、エスパーみたいにわたしの思っていることを汲み取ってみせる。
重なった手の温度はわからなくて、ただ、暑い、と思った。
グッバイサマー
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