「名前っち!明日秀徳高校で練習試合があるんスよ!」
「そうなんだ」
急に私の家に押しかけてきた黄瀬くんはニコニコしながらそう告げた。
でも、明日は薄い本を買いに行くから残念ながら試合を見に行くことはできない。
だからなるべく興味のないようにして振る舞ってみた。
「っで、名前っちもちろん来てくれるっスよね!」
「え」
ちょ、さっきの素っ気ない態度で勘付いてよ!
「い、いやー、明日はね・・」
「もしかして、何か用事があるんスか・・?」
名前が濁しながらも断ろうとすると、目に涙を溜めて見つめられる。
・・・・っ上目遣いに、涙目・・・!
「・・・くっ」
可愛すぎる攻撃に必死に耐え、どう断ればいいか考える。
・・・いや待て私。秀徳高校と言えば、確か前に誠凛と試合したとき・・カナリ萌えた二人がいたはず!!
「用事なんてまったくないよ!明日絶対に行くね!!」
「ホントっスか!?良かったー、じゃあ俺名前っちの為に頑張るっスよ!」
またあの二人が見れるなんて・・!嬉しすぎる・・!
薄い本のことはどこへやら、一瞬で頭から消え去った。
◇
「ついに来たよ・・!秀徳高校!」
名前は迎えに来てくれるという黄瀬の誘いを断って、一人で先に秀徳高校に来ていた。
なんでなんでと駄々をこねる黄瀬に「先に行ってかっこよく入ってくる黄瀬くんが見たいなー」とか適当なことを言ったらすんなり言う事を聞いてくれた。
「ホントは黄瀬くんと一緒に来たかったけど・・今はそれより・・!」
試合前の二人を見たいんです・・!
体育館に着くと、海常高校との練習試合とあってかチラホラと女の子の姿が目に入る。
・・・流石黄瀬くん。まだ黄瀬くんは来てないのにファンの子は既にいるよ・・。
名前は体育館には入らず、ドアから頭を覗かせて例の二人を探す。
試合までまだ時間があるためか、ユニフォームにすら着替えていない。
「おーい真ちゃん!」
「!?」
自分に向けられたわけではないが、後ろから声が聞こえたため驚いて振り向く。
「うるさいのだよ」
「それよりさっき言った曲見つかったからさ、ちょっと聞いてみろって!ほらっ!」
「・・・」
そう言ってひとつのイヤホンを自分の耳に付け、もう片方のイヤホンを緑間に渡す。
緑間は何も言わずそのイヤホンを受け取ると自分の耳に付ける。
・・・きたこれ、なにこれ、えっやばい!!!
声が出ないよう手で口元を押さえ、バレないようにしゃがんで様子を見る。
ちょっ、そのイヤホンの付け方は反則・・!!
秀徳万歳!来てよかった!!
萌えをかみ殺してニヤケそうになる顔を必死で我慢する。
そのせいかプルプルと体が震えている。
「なっ、結構良い曲だろ?真ちゃんも好きだよね」
「・・・嫌いではない」
「またまたー、照れるなよー!素直に好きって言えって!」
「ぶっ」
名前はついに耐え切れなくなり吹き出してしまった。
吹き出したのが鼻血じゃなくて良かった・・!
でもあの会話はもうそういうことにしか聞こえないよね!?私悪くないよね!?
「ん?」
「?」
二人が音のした方を振り返ると、女の子がしゃがみ込んでプルプル震えていた。
「え!?ちょ、大丈夫!?」
「・・・はい、大丈夫です。寧ろごめんなさい」
大丈夫という証拠に口を押えていた手を離し立ち上がる。
そしてそのままペコリと頭を下げ謝罪する。
二人の邪魔して本当にごめんなさい。でも悪気はありません。本当です。
「ん?・・・って誠凛のマネージャーじゃん!・・・確か名前ちゃん!・・・真ちゃん!名前ちゃんが来てるよ!!」
「なぜ俺を呼ぶのだよ!」
「え、だって前練習試合した時、俺が名前ちゃん可愛いなーって言ったら真ちゃんもそうだなって言ってたじゃん!」
「なっ、そんなこと言ってないのだよ!!」
・・・あれ、なんか話が変な方向にいってるような気が・・。
◇
ガラッ
サッサッ
「・・・あれ、名前っちいない・・。」
「何カッコつけてんだよっ!!普通に歩け!!」
「いたっ!・・・酷いっスよっ笠松先輩・・」
名前達がいる方とは逆のドアから入った黄瀬は名前に言われた通りかっこよくモデル歩きで登場していた。
後編へ続く