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昨日は結局黒子の誤解を解くことができないまま家に着いてしまった。

そして、そのまま話しかけることができず、部活の時間になった。

「あら?名前ちゃん、なんか元気ないわね。何かあった?」

「え・・・!?何もないですよ!!」

「そう。ならいいけど・・・。」

リコは顎に手をあて、自分の元をそそくさと離れていく名前を見つめた。


明らかに何かあったわね・・・。


「はぁ・・・。」

テツくんの誤解を解かなくちゃいけないのに、話しかけることすらできてないよ・・・。
どうしよう・・・。


チラっと黒子を見てみれば、いつも通り無表情ではあるが心なしか悲しんでるように見えた。


名前さんに話しかけられずに、ついに部活の時間になってしまった。
帰りに聞くこともできるかもしれないが、なるべく早くと思って何度か試みたが、あと一歩踏ん切りがつかなかった。


「はぁ・・・。」


ガラッ


「「「!?」」」

「黒子っち!!」


休憩に入ろうとした時、いきなりドアが開き全員がドアに目線を向けた。

そこにはうっすらと汗を掻いた黄瀬が黒子を睨むようにして立っていた。


「黄瀬くん・・?」

「ちょっと黒子っち借りるっス!!」

「え、ちょ、ちょっと!!・・・まぁ、休憩だしいいか。」


黄瀬はリコにそう言うと返事を聞かずに黒子の腕を引き、体育館から出て行った。
他の部員は唖然として二人が去って行った方を見ていたが、リコの「休憩ー!!」という言葉に徐々に動き出した。


「涼ちゃん・・・?」

だが、名前だけはいまだに二人が去って行った方を見つめていた。



「黄瀬くん、痛いです。」

「・・・黒子っち。」


思ったよりも強く腕を引いていたことに気づき、力を緩め黒子を見る。
ずっと前に見たときはもっと堂々としていて、自分に対抗する意志が見えたのに、今の黒子は酷く弱弱しく見えた。

「・・・黒子っちは、ズルいっすよ!!」

名前っちに好きなってもらえて、自分の為に泣いてたんスよ・・・!!
俺が欲しくても得られなかったもの、全部、全部もってるのに・・・!

「なんで、なんで・・・。」

それなのに、どうして、

「名前っちから嫌われてるなんて、思うことができるんスよ・・・!」

「っ!?・・・なんで、黄瀬くんがそんなこと知ってるんですか・・・?」

「昨日、名前っちに会ったんスよ。その時、名前っちが泣きながら話してたんスよ!!」


あの時泣いていたのは、自分が嫌われていると言ってしまったから・・・?
自分が泣かせていた・・・?

なのに、なぜ自分が頼られないのかと問い詰めていたってことですか・・・?


「僕は、ばかです。名前さんに、頼られたいなんて・・・。」

「っ、なんで、もっと自信を持てないんスか!!」


声を張り上げ黒子の肩を掴んだ。


「自信なんて持てませんよ!!」

黄瀬の手を振り払い、声を荒げる。

「黄瀬くんは、僕なんかよりもかっこいいし、何でもできるし、名前さんにだって頼られて、それで、どうやって自信を持てって言うんだ!!」

ずっと心に溜め込んでいたことを黄瀬にぶつけた。
黄瀬は黒子の言葉に目を大きく開け驚いたような顔をしたが、すぐに真剣な顔に戻り、黒子を睨んだ。

「なんスか、それ。今の黒子っちには失望したっス。・・・黒子っちがそんなんなら、負ける気、しないんで。名前っちは俺がもらうっスよ。」

「っ・・・。」


黄瀬は黒子の横を通り過ぎ、来た道を帰ろうとした。
だが、黒子の少し後ろで止まり、黒子に向き直る。

自分が名前の元に行こうとしても、一向に動こうとしない黒子を黄瀬は悲しそうな顔をしながら見つめた。



「ここまで言っても、ダメ、なんスか・・・?」

「いつ、名前っちが黒子っちより俺の方がかっこいいって言ったんスか?」

「いつ、俺がなんでもできるって言ったんスか?」

黒子は黄瀬に背を向けていた状態から、黄瀬に向き直る。


「そんなこと、名前っちは1度も言ってないっスよ・・・!黒子っちが勝手に俺を凄い人みたいにして、勝手に勝てないって決めてるだけじゃないっスか!」

「そんなこと・・・!」

「前は絶対に負けたくないって、言ってたじゃないっスか!!」

「!!」

「あの時の黒子っちは、勝てないって思ってる俺にも、勝てるぐらい自信があったからそう言ったんスよね!?」


あの時は、ただ、がむしゃらに名前さんが好きで、絶対に誰にも負けたくて、それは、もちろん黄瀬くんにだって負けたくないって思ってました。
でも、どんどん名前さんを好きなっていくうちに名前さんに嫌われるのが怖くなって、名前さんの一番近くにいる黄瀬くんが自分とはかけ離れた存在に思えて。


「あの時の気持ち、思い出して欲しいっス。・・・もっと、自信持ってくださいっスよ。黒子っち。」


じゃなきゃ、安心して名前っち預けられないじゃないっスか・・・。


「黄瀬くんは、バカですね。」

「?」

「敵に塩送るなんて、ホント、バカです。」


さっきまでの弱弱しい様子はなくなり、名前をまっすぐに好きだったころのように強い眼差しで黄瀬を見た。

「でも、ありがとうございます。」

バカにされても何も言わない黄瀬の横を通り、走って体育館に戻る。

「はぁ・・・。行ったっスね・・・。」

仮に、俺が黒子っちの言うかっこよくて、なんでもできる人だったしても、名前っちに好きなってもらえないんじゃ、そんなの、

「・・・なんも、意味ないっスよ。」

空を見上げれば晴天で雲一つとしてないが、雨が降った気がした。
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